カッ――。
 無音の雷光が闇空に瞬いている。
 ザパぁ――。
 荒れ狂う海、吹き荒れる暴風雨。ヒビ割れた大地。
 見渡す限り、景色はすっかり荒み果て、まさに終末世界を彷彿とさせる光景が何処までも広がっている。
 絶海の孤島の中部に薄っすら残る建造物群は瓦解し、荘厳だったであろう嘗ての原形を既に留めてすらいない。
 ヴゥゥ――ゥゥゥ……。暗鬱たる大気が何らかの波動に共鳴している。
 見渡す限りの瓦礫の中で、城砦跡を忍ばせる僅かに一区画のみが、黒いドーム状の歪な色調空間に覆われていた。
「わぁぁぁぁ……。またしんじゃったっ」
 一帯に反響する絶叫。飛沫を上げる荒波に面した砂辺で、腕に血塗れの男を抱いた少女がヒステリックに号泣していた。
「こんなはずじゃなかったのにっ……うぅ……やり直しだっ……やり直しっ!」
 泣き叫ぶ少女の背中から生え伸びた六枚の白い翼は、所々が返り血の様な朱色の染みが出来ていた。
 少女の腕に抱かれた男はぐったりと微動だにせず、その背から伸びた十二枚の漆黒の翼は血塗れで襤褸切れの様に解れている。
「だって……だってっ……こんな世界……」
 ザァァァァ――……カッ!
 降りしきる雨の中、陰鬱に覆われた空を仰ぎ見て絶叫する少女を背景に、刹那の閃光が奔る。
「――残ったって仕方ないじゃないかっ!!」
 ドォンッ! ゴロゴロ……。降り落ちた爆雷が、地鳴りと共に近間で雷鳴を轟かせる。
 喉奥から咆哮を張り上げる少女の総身から溢れ出した幾筋もの光の輝線が一帯を純白の巨大なドームを形成し……。
 パぁ――……刹那、瞬いた閃光が少女の姿を呑み込んだ。地響きを立てて崩れゆく終末の世界をその場に置き去りにして。