そこで、燈は微笑む。

「お相手にもきっと貴方の本当の優しさが伝わってると思います」

 少女の頬を、一筋の涙が静かに伝った。
 声にならない言葉を受け止めるように、紙コップの中の液面が僅かに揺れた。

「……でも、私酷いことをしました。彼を傷つけたのに自分のほうが苦しいなんてずるいと思って」

 店内の時計が秒針を刻むたび、静寂が一拍ずつ深くなる。言葉の後に残る静けさがテーブルの木目に染み込んでいくようだった。

「でも自分の心を裏切ったまま、相手の期待に応え続けるほうが、よほど残酷かもしれませんよ。好きになれない自分を責めてしまうのは、それだけ真剣に向き合っていたからです。彼と付き合った事、後悔していますか?」

 沈黙が落ちる。その沈黙の中で、少女は何かを反芻していた。

「……後悔はしていないです。付き合っていた時間は苦しい事もあったけど、とても楽しかったんです」

 やっとの思いで絞り出された声には、かすかな希望のようなものが混じっていた。

「その言葉を、良かったら彼に伝えてあげてください」

 少女はゆっくりと視線を上げた。瞳の縁が赤く染まっている。その中に少しだけ光が戻っているように見えた。

「もう一度、会って伝えたいと思います」

 その呟きを聞いて、燈は小さく頷いた。

 ステラが慰める様に、少女の足元に白い尾をふわりと巻きつける。それに気付いた少女がテーブルの下を覗くと、ステラは細い声で短く鳴いた。