夏祭り当日。
ボクは萌音ちゃんと浬と外に出た。夕方だというのに、まだ昼間のうだるような暑さが残っていた。アスファルトの熱が肉球にじんわりと刺してくる。
浴衣姿の萌音ちゃんと、普段着姿の浬の後ろをついていく。歩くたび、首輪についている鈴がチリンチリンと涼しげな音を奏でる。不本意ながら、前を歩く二人の気持ちを高めているようだった。
「浬くん、まず何する?」
「萌音の好きなのでいいよ」
「じゃあまずはヨーヨーすくいしたい!」
「まかせろ、今年こそは取る! ミルクも目ん玉開いて見てろよな」
「ニャア」
何が、ニャアだよ。
このくだり、去年も同じだったぞ浬。
運動神経は抜群のはずなのに、こういうゲーム性のものは向いてないらしい。去年も取れなくて結局萌音ちゃんが自分で取ってたっけ。何でもこなせるようで案外抜けていて、案外可愛い奴だったりする。
萌音ちゃんは彼のそんな所も知っているから好きになったんだと思う。
「ミルク、もう危ないから入ってろ」
ボクは浬に抱き抱えられてペットスリングに入った。顔は出ているから夏祭りも楽しめる。
会場に着いたボクらは早々にヨーヨーすくいへ。結果惨敗。
「やべー、今年こそは取れると思ってたんだけどなー。結局今年も萌音が取ったしー。来年こそはリベンジする!」
「そーだよ。来年頑張ろ、浬くん。次はスーパーボールすくいしない?」
「おう、やろうぜ」
「そういや萌音、何でこんなにスーパーボールいるんだ?」
何に使うんだ、という呆れ顔の浬。
「これ? だってわたしが留守の間、ミルク退屈しないよーにね、たくさん欲しいの」
「ミルクのおもちゃかー、納得。じゃあ俺、いっぱい取ってやるからな、ミルク」
おいおい、納得されてもなぁ。でも実際、おもちゃ箱からいっぱいスーパーボール出して豪快に猫パンチして遊んでるわ、ボク。
「あー! 俺のすくうやつ破れたし」
「兄ちゃん、ほらサービス。新しいポイやるから彼女にいい所見せな」
「あ? おっちゃん、ポイって何だよ」
「あん? スーパーボールとか金魚すくいに使うそれをポイって言うんだよ」
「へー、こんなのにも名前あるんだな、知らんかった」
「勉強になっただろ?」
「まあな」
「ほれ、早くやれって。みんなには内緒だからな」
「サンキュ、おっちゃん」
しかもこのおっちゃんに彼女にいい所見せなって言われているのに、その話題についてはスルーかよと突っ込みたくなってしまう。
本当に浬に足りないもの、それは恋を知ることだろうって思った。
萌音ちゃんもスーパーボールすくいに夢中になっていて、おっちゃんの言うことなんて気にもしてない。
あぁ──、本当にこの先。この二人が交わる接点があるのかと不安になる。
もし、もしもだ。交わらないまま終わってしまったとしたらどうだろう。
ボク的にはライバルが減ってホッとするのか?
いや、ボク猫だし。
それともそれぞれが違う誰かを好きになってしまうのか?
そんなこと絶対に悲しすぎる。
一体ボクは浬の敵か味方か、どっちなんだよと自分に突っ込みたくなって笑った。
「ニャア」
「ん、ミルクどした?」
「ニャ······(しまった、笑ってんの気づかれたか)」
「疲れたらもう寝ていいぜ、ミルク」
お前、ほんとにいい奴じゃん。萌音ちゃんが惚れるのも分かるっていうかさ。ほどなくして夏祭りの記憶が曖昧になった。スリングの揺れと浬の体温が妙に心地よくて眠気を誘った。
ボクは萌音ちゃんと浬と外に出た。夕方だというのに、まだ昼間のうだるような暑さが残っていた。アスファルトの熱が肉球にじんわりと刺してくる。
浴衣姿の萌音ちゃんと、普段着姿の浬の後ろをついていく。歩くたび、首輪についている鈴がチリンチリンと涼しげな音を奏でる。不本意ながら、前を歩く二人の気持ちを高めているようだった。
「浬くん、まず何する?」
「萌音の好きなのでいいよ」
「じゃあまずはヨーヨーすくいしたい!」
「まかせろ、今年こそは取る! ミルクも目ん玉開いて見てろよな」
「ニャア」
何が、ニャアだよ。
このくだり、去年も同じだったぞ浬。
運動神経は抜群のはずなのに、こういうゲーム性のものは向いてないらしい。去年も取れなくて結局萌音ちゃんが自分で取ってたっけ。何でもこなせるようで案外抜けていて、案外可愛い奴だったりする。
萌音ちゃんは彼のそんな所も知っているから好きになったんだと思う。
「ミルク、もう危ないから入ってろ」
ボクは浬に抱き抱えられてペットスリングに入った。顔は出ているから夏祭りも楽しめる。
会場に着いたボクらは早々にヨーヨーすくいへ。結果惨敗。
「やべー、今年こそは取れると思ってたんだけどなー。結局今年も萌音が取ったしー。来年こそはリベンジする!」
「そーだよ。来年頑張ろ、浬くん。次はスーパーボールすくいしない?」
「おう、やろうぜ」
「そういや萌音、何でこんなにスーパーボールいるんだ?」
何に使うんだ、という呆れ顔の浬。
「これ? だってわたしが留守の間、ミルク退屈しないよーにね、たくさん欲しいの」
「ミルクのおもちゃかー、納得。じゃあ俺、いっぱい取ってやるからな、ミルク」
おいおい、納得されてもなぁ。でも実際、おもちゃ箱からいっぱいスーパーボール出して豪快に猫パンチして遊んでるわ、ボク。
「あー! 俺のすくうやつ破れたし」
「兄ちゃん、ほらサービス。新しいポイやるから彼女にいい所見せな」
「あ? おっちゃん、ポイって何だよ」
「あん? スーパーボールとか金魚すくいに使うそれをポイって言うんだよ」
「へー、こんなのにも名前あるんだな、知らんかった」
「勉強になっただろ?」
「まあな」
「ほれ、早くやれって。みんなには内緒だからな」
「サンキュ、おっちゃん」
しかもこのおっちゃんに彼女にいい所見せなって言われているのに、その話題についてはスルーかよと突っ込みたくなってしまう。
本当に浬に足りないもの、それは恋を知ることだろうって思った。
萌音ちゃんもスーパーボールすくいに夢中になっていて、おっちゃんの言うことなんて気にもしてない。
あぁ──、本当にこの先。この二人が交わる接点があるのかと不安になる。
もし、もしもだ。交わらないまま終わってしまったとしたらどうだろう。
ボク的にはライバルが減ってホッとするのか?
いや、ボク猫だし。
それともそれぞれが違う誰かを好きになってしまうのか?
そんなこと絶対に悲しすぎる。
一体ボクは浬の敵か味方か、どっちなんだよと自分に突っ込みたくなって笑った。
「ニャア」
「ん、ミルクどした?」
「ニャ······(しまった、笑ってんの気づかれたか)」
「疲れたらもう寝ていいぜ、ミルク」
お前、ほんとにいい奴じゃん。萌音ちゃんが惚れるのも分かるっていうかさ。ほどなくして夏祭りの記憶が曖昧になった。スリングの揺れと浬の体温が妙に心地よくて眠気を誘った。

