萌音(もね)ちゃんが中学一年生のとき。ボクを家族の一員として迎え入れてくれた日から二年の月日が過ぎた。
 彼女は中学三年生になって、ますます可愛さが増している。ボクも負けじと萌音ちゃん一家の愛情をたっぷりと受けて、すくすくと可愛く成長中なのだ。

 ご飯を入れるお皿は丸みのある陶器で、肉球のイラストが底に描かれていて、ぜんぶ食べると見える仕掛けだ。萌音ちゃんがボクのために選んでくれたもの。どんなご飯も特別になるし幸せになる。

 沢山の知らなかった、何でもない普通で当たり前の日常を萌音ちゃん家族はボクにいっぱい教えてくれた。
 ここへ来たばかりの頃は無知と好奇心が勝ってイタズラしたり、トイレもあるのにあちこちにして汚してたっけ。自由に走り回れる楽しさを知らなかったから。だから、いっぱい家の中を走った。

 頭ごなしに怒らないで、わかるまで何度も根気強く教えてくれた萌音ちゃん。ボクはそんな優しい君のことを、どんどん好きになっていったんだ。

 テトテト。チリンチリン。テトテト。チリンチリン……
 
 ボクは友達のキラを口に加えながら、家の中を徘徊した。友達は三毛猫のキラ。萌音ちゃんがそう呼んでいるから。でもね、キャットフードもねずみのおもちゃもいらないんだ。キラはぬいぐるみだからね。
 萌音ちゃんは、自分が学校に行ってもボクが寂しくないようにって大事なぬいぐるみをくれたんだ。そんなこんなで今ではキラが一番の友達になった。

「ミルクはまたここから見てるの? 萌音、もうすぐ帰ってくるわよ」
「ニャア」

 ママさんが乾いた洗濯ものを取り込みに二階へ上がってきた。

 ボクのとっておきの場所がここ。
 階段を登り切った先の、南側に面した場所に萌音ちゃんの部屋がある。大きくて三方向見渡せる出窓があって、そこから見える景色がお気に入りなんだ。
 マンションや戸建てが建ち並ぶ住宅街で、いろんな人が行き来したり、宅急便のトラックや郵便配達のバイクが忙しく走る。眺めているだけで飽きないよ。

 下校途中の小学生かな。楽しそうな甲高い声がした。
 とっておきの場所から眺める景色はまるで動く立体絵本のようで楽しいんだ。
 ママさんが洗濯ものをそれぞれの引き出しにしまい終えて、またボクの所へ戻ってきた。

「ミルクおいで、よしよし」

 ボクの名前を呼びながら体や顔を撫でてくれた。嬉しくて喉をゴロゴロと鳴らした。
 特に目頭に近いおでこ辺りを指で優しく撫でられるのが一番好きだ。ちょっとマニアックな所を撫でられるのが好き。変わった奴だろ?
 混じりけのない真っ白なボクの毛並みを見て『牛乳みたいに白いから名前はミルクだよ』と萌音ちゃんが名付けてくれた。
 男にミルクだなんて可愛すぎる名前だよなって思ったりしたけれど、わりと気入っている。