煌めく星空から、恋した君に会いにゆく

 目覚めると、いつも通りケージの中だった。
 ボクはたぶん、生まれたときからここ、動物愛護センターにいる。
 周りはボクよりも体が大きい猫ばかりだ。まだ小さいからという理由で、特別にひとりで過ごしている。
 ママもパパも知らない。顔すら見たこともない。生きているのかな、この建物のどこかにいるのかな、それすらも知らない。

 どうしてご飯を残すのかしらねぇ、と世話をしてくれる女の人は、ボクを心配そうに見る。ここで働く職員だ。
 どうしてって、そりゃあね。こんな所にずぅーっと閉じ込められてたら、食欲も沸かないし遊ぶ気にもなれないよ。ボールもねずみのマスコットもあるけど、狭い檻の中でどうやって遊べというんだ。

 ──そう、ボクは人の声を聞き感情も理解する猫。話せないのがもどかしいくらい。



 ケージの中に居た猫がある日突然、姿を消すことは日常茶飯事だった。
 どうしたのかな?
 体を綺麗に洗ってもらっているのかな?
 でもどれだけ日にちが経っても、姿を消した猫は戻ってはこなかった。
 
 新入りの子猫が居るケージの前に、小さな男の子を連れた家族がやって来た。何度かその猫に会いにくる家族だ。
 シルバーとブラックの縞模様が綺麗に入った猫、アメリカン・ショートヘアだ。通称アメショ。ただそこにいるだけで気品溢れる佇まいだ。ただ真っ白い毛のボクとは違う。
 男の子とその家族が来なくなってから、新入りアメショもここへ戻ってくることはなかった。きっと一緒に暮らしているんだろうって思った。

 ボクの未来はいずれ決まる。
 ここで終わるか、それとも違う未来が待っているのか。
 変わり映えのしない室内で、ひとり檻の中で与えられた食事をする。おいしいのか、おいしくないのかすらも感じない。お腹が満たされれば良かった。そして満腹になったら寝る。一日がそんな風にして流れていった。
 楽しいことと言えば空想することくらい。
 寝ているときと空想しているときが、ボクにとって一番楽しい時間なんだ。

 でもね、悲観なんてしない。だって今日もまたあの夢を見たのだから。
 おりひめさまと、ひこぼしさまが年に一度だけ出会う場所、天の川に行く夢を何度も見る。
 ボクは信じてるんだ。
 夢の中でいつも耳にする、萌音(もね)ちゃんという女の子のこと。
 きっとボクは萌音ちゃんのことをずっと待ってるんだ。彼女と出会うために生まれてきたのだということを信じている。
 
 無機質な丸い器に、水とキャットフードの朝ごはんが置かれている。
 でも今日はいつもと様子が違った。やたらボクの周りが騒がしい。お世話をしてくれる女の人がボクの所へ来ては、またどこかへ行くということを幾度となく繰り返している。
 感情もなく朝ごはんを食べていると、ある家族連れがボクの目の前に立った。初めて見る顔ぶれだ。

「私、この子猫やっぱり飼いたいの。お母さん、いいでしょう?」

 柵と柵の隙間から覗き込む女の子が、ボクに目線を合わせてこう言った。

 どうやらボクの知らない間に起きていた出来事だった。女の子を連れた家族は幾度となく足を運び、ボクを見に来ていたらしい。今まで気づかなかったってことは寝ていたのかな。
  
「そうねぇ、引き取り手がなければ殺処分されてしまうのよね。まだ子猫だし。いいわ飼っても。その代わり萌音(もね)、約束して。ちゃんとこの子の面倒を見るのよ」
「見るっ、ちゃんと面倒見るよ。お母さんありがとう!」

 この瞬間、ボクは彼女の笑顔を一生脳裏に焼きつけておこうと思った。
 冷たさで満ちた檻から出されたボクは、彼女の温かな手に抱かれた。未知なる外の世界へと飛び立つことができた。