七月七日、夜二十一時一分。
 藍色に染まる夜空は特に綺麗だった。
 朝からよく晴れていたから星がよく見える。
 年に一度だけ天の川で逢う、おりひめさまとひこぼしさまを祝福するかのように、その星々たちは順番に輝きを増していく。
 ボクはお気に入りの出窓に座った。萌音ちゃんと(かいり)のために、目を閉じて天の川へ願いごとを込めた。

「ミルク、今日のお星さま綺麗だねー。天の川で二人が出会えるように私も願わなくちゃ!」

 萌音ちゃんの声は聞こえているのに、いつものように反応できないでいた。それでもボクは聞こえてくる声に耳を澄ませる。


 




 

ミルク、聞こえていますか?
七夕に私達に会いに来てくれてありがとう。
ミルク、貴方は本当にそれでよいのでしょうか?
私達はミルクに幸せになってもらいたくて人の言葉を聞き、理解する力を与えました。
友達思いの貴方に話す術を与えました。
自らの想いを胸に閉じながらも、彼らのために願おうとする姿に胸を打たれました。
しかしミルク。
私達が貴方に与えた力は必ずしもそれだけのために与えたのではありません。
貴方が、貴方の気持ちを伝えるために与えたのです。
友達に想いを伝えたなら、今度は自らの想いを、幸せを願ってもよいのです。
さあ、貴方の願いごとを叶えましょう。
ミルク。
その胸に秘めた想いを彼女に伝えてあげてください。
きっと彼女の未来も晴れることでしょう。

 





 

 そばにいたキラに温もりを感じた。前にも同じように感じた温もりだ。
 もしかしたら──。
 おりひめさまと、ひこぼしさまがキラを通じてこうして話かけてくれたのかもしれない。鏡の前で人間の姿になったあの日も今日も。
 そうしてボクの目の前に、目を開けていられないほどの光が、雷鳴とともに降り注ぐ。
 目を閉じて成り行きに身を任せてみた。
 鏡に映るのは以前に見た()が映っている。
 陶器のように透き通る白い肌。口元は小さくて青い瞳。真っ黒な髪の毛をサラサラとなびかせて、彼はそこに立っていた。