【ホームルーム長引いてるんで、迎えに行くの遅くなりそうです】

放課後、帰る準備をしていると伊澄からメッセージが届いた。
伊澄と付き合い始めてから早くも二週間。
前と特に変わったことはなく、俺たちのペースでいい関係を続けられていると思う。
もともと優しかった伊澄はさらに優しくなって、いつも俺を一番に優先してくれようとする。
だから、俺も同じように伊澄を大事にしたいって思うんだ。

【こっちはホームルーム終わったから、今日は俺が行くよ】
そう返信して一年のフロアへ。
俺が伊澄のクラスに着いたころ、ちょうどホームルームが終わったタイミングだった。
クラスから出てくる伊澄を少し離れたところで待っていたとき。

「伊澄くんちょっと待ったぁ!」
「は、なに」
また女子に声かけられてるな。
伊澄の人気は相変わらずだ。
「今度デートしてほしいってお願いしたじゃん!」
「そんな話したっけ?」
「したよ! 今日このあとどう?」
「待たせてる人いるし急いでるから」
「じゃあ、いつならいいの!」
「いつも無理。俺の時間はお前のもんじゃないの」
「だったら誰のものなの!」
「俺、本命いるんだよね」
「は……今なんて⁉︎」
「めちゃくちゃ惚れてんの」
「「「「きゃー‼︎ 何それ……‼︎」」」」
クラスにいるほとんどの女子が絶叫してるんじゃないかと思うレベルの悲鳴。

「伊澄くんの本命って誰⁉︎」
「あの伊澄くん惚れさせた相手ってどんなやつ⁉︎」
「絶対つきとめてやる……‼︎ わたしたちの伊澄くん奪ったの許せない‼︎」

背筋がゾクリとした俺は、思わず廊下の隅に隠れた。
これが俺だってバレたら女子たちに殺されるのでは……?





「あっ、あれ新作のフラペチーノだ。真生先輩好きそう」

さっきの女子たちの騒動がなかったかのように、伊澄は平常運転。
帰り道、俺はこの光景を女子たちに見られてるんじゃないかとヒヤヒヤしてる。
そもそも俺が伊澄と一緒にいるのを見られたところで付き合ってるという発想にはならないか。
いやでも女子たちの勘の鋭さを舐めてはいけない。
もし伊澄の本命が俺だとわかったとき、俺は学校中にいる全女子を敵に回すことになるかもしれない。
はぁ、ほんと伊澄はどこまでも罪な男だ。

「はい、先輩。返事なかったんで新作のやつにしましたよ」
「……え?」
「ホワイトチョコソースの新作ですって。結構甘めなんで先輩好きかなって」
「あっ、あぁ! わざわざ買ってきてくれたのか?」
俺がぼうっとしてる間に、ゲットしてきてくれたみたいだ。
「えぇっと、お金ーー」
「いいっすよ。ってか、一緒に飲みません?」
「あ、ありがとう」
最初の一口目は俺に譲ってくれた。
「んっ、あまっ‼︎」
いつものホイップクリームにチョコチップとホワイトチョコソースがトッピングされていて、甘さ最強の組み合わせ。

「ホワイトチョコの甘さが染みる……!」
「先輩、俺もちょうだい」
俺の手を軽く掴んで、自分のほうへ引き寄せた。
「わ、結構甘いっすね」
ストローの飲み口を思わずじっと見つめる。
さっきまであんまり意識してなかったけど。

「ふっ、もしかして意識しちゃいました?」
「な、何を」
「間接キスだーって」
「っ⁉︎ そ、そういうのは言わなくていい……‼︎」
「だって、真生先輩あからさまに可愛い反応するから」

くっ……ほんとに伊澄には敵わない。
伊澄が俺の思考を読むのがうまいのか、もしくは俺がものすごくわかりやすいのか。
えぇい、こんなの気にしていたらこの先もたない!
勢いよく再びストローに口をつけた。

「これくらいで動揺しちゃうなんて真生先輩ピュアー」
「伊澄がいろいろ慣れすぎなんだよ!」
「ほら、ここ口ついてますよ」

伊澄の親指が俺の口元に触れて、軽く拭った。
そしてその指を自分の口元に持っていき、ペロッと舐めた。

「これだけでもやっぱり甘いっすね」
「……‼︎」

コイツは一つ一つの動作がどうしてこうも色っぽいんだ……!
しかも、そういうの意識せずに自然とするから本当に困る。
頬のあたりが急激に熱を持ち始めたのがわかって、今の自分がどんな顔をしてるのかだいたい予想できる。

「あー、やっぱマスク復活してほしー」
「急にどうしたんだよ」
「先輩がそんな可愛い顔するから」
「こ、これは……伊澄のせいだ……!」
「俺にしかそんな顔見せられないですね」
そんなの当たり前だし、俺がこんなふうになるのは伊澄限定だ。
「まあ、真生先輩が前向くためのことなんで応援はしますけど」
身体を俺のほうへ向けて、顔を少し傾けて、わずかに唇が重なった。
「それ、俺以外に見せちゃダメですよ」
「こ、ここ外だぞ……‼︎」
「俺は見せつけてもいいですけどね」
くっ、こんなの何も返す言葉なくなる。
伊澄が幸せそうに笑っている顔に、俺はすこぶる弱いのかもしれない。

「あ、そうだ。今度の休み一緒に出かけましょうよ。どこか行きたいところあります?」
「行きたいところ……か。たくさんあるけど……」
「遠慮しなくていいですよ。先輩の行きたいとこ全部行きましょ」
「ど、どこでもいい」
「えー、たくさんあるんじゃないんすか?」
「伊澄と一緒ならどこでも楽しいかなと思って」
俺にとって今こうして伊澄と過ごせてる時間が幸せだからこそ、どこでもいいっていうのに嘘はない。

「はぁ……こんなに俺を喜ばせるって先輩天才ですよ」
「い、伊澄限定だし」
「じゃあ、これからもずっと俺のこと独占してくださいね」
笑顔でさらりとこんなことを言うなんて……これだから菅生伊澄は侮れないーー。


*End*