【完結】闇オークションに出品された人魚のオレ、落札したマフィアに溺愛されちゃってます!? ~神海SIREN暗部界~

 冥の部屋に飛び込む。
 そこには玄武門派の奴隷の焼き印を胸に捺された墨星が、くたりと横たわっていたのだ。

 「伏……竜……」

 弱々しい声が、俺の心に怒りの炎を燃え上がらせる。
 人魚は心から愛した者への献身を惜しまない……そう昔話でも語られてたってのに!
 俺は馬鹿だ! 墨星、すまねぇ!!

 本気で鳳雛と冥を殺して、墨星を連れて逃げるつもりだった。
 朱雀門派と玄武門派に追われようが、もうどうだっていい!
 墨星をもう、あんな目に遭わせたくなかった。

 と、そこでテーブルの上に置いてある刃物が目に入った。
 墨星が、あからさまに怪しく隠してた赤い刃。
 どうせ鳳雛からロクでもない駆け引きを持ち掛けられたんだろうと思っていたそれに、俺は飛びつきかけた。

 人魚の伝説では、愛した男を殺した返り血を浴びればヒトから人魚に戻れる。
 きっとそれだろう、と。

 墨星に俺を殺す度胸なんて無ぇだろうし、愛されてるとか思っていなかったから放置していたが、今は別だ!
 俺は墨星を愛しているし、愛されている自信がある。
 墨星を連れて海まで逃げて、何とかこいつに俺を殺させて返り血を浴びさせれば……!
 人魚に戻って、何処までも逃げられるはずだ!

 思考が泥のように混ざる中、ティグルがやってきて有耶無耶になった。
 だが、俺は墨星を玄武門派の売り物にする気は無ぇ。

 そう思いながら廃工場で出逢ったのは――王老大だった。

 思い出せなかった船での出来事が蘇る。

 そうだ……俺は、この人に殺されかけたのだ、と。

 なのに、どうやって海に落ちて助かったのかが思い出せない。
 思い出せそうで、思い出せないのだ。

 大切なものから忘れてゆく捜魂の歯痒さを感じながら、俺は王老大と対決した。
 俺の剣の師匠でもある王老大の剣技は老いてなお凄まじい。
 剣を弾き返す度に甲高い音が鳴り響き、腕が震える程だった。
 そして、戦う度に少しづつ思い出してきた。

 『伏竜!』

 死にかけの俺を背負い、瓦礫が浮かぶ暗い海の中をひたすら泳ぐ、小さな背中。
 周りには鮫がいるのに、必死に泳いで、俺に声をかけ続けてた魚仔(魚の坊や)。
 胸の傷の痛みより、そいつへの熱い想いが胸を焦がした記憶を。

 俺には守りたいものがある。

 だが、戦闘の途中で王老大は俺を放置して走り出した。

 「美花に触るなぁああああああ!」

 美花様は確か、王老大の妻で俺にも良くしてくれた恩人だった。
 当時、対抗していた何処ぞの組織の野郎どもに凌辱された後に殺されて死体を屋根から吊るされていたことで、四門派で抗争が起きかけたのを覚えている。

 まさか、美花様を蘇らせるつもりだったのか!?

 墨星に似た女は胸から下が骨になっている。
 王老大が美花と呼んだ死体は、胸から上が骨になっていて……。

 その歪な移植に背筋に冷たい汗が伝う。
 だが、墨星を守るべく駆ける俺は王老大に剣を突き立てる。

 だが、目の前で、倒れた王老大を女が抱え、飛び降りたのだ。

 墨星が泣き叫ぶ。

 「白月ねーちゃぁああん!」

 墨星の慟哭に俺は心を痛めながらも、白月が姉だったのかよと、ようやく記憶の点と点が線になった。
 それからは、墨星を労わりながら廃工場を後にしたが……。
 冥となんだかんだありつつ、墨星は奴隷から解放された。
 一安心した時……

 漂う潮風に、全てを思い出した。

 俺が生涯をかけて愛した人魚の男のことを。

 何年もかけて墨星を捜し続けたことも。
 オークションでのことも。
 あの日の浜辺で、墨星と結ばれたことも。

 それらの記憶が怒涛の如く溢れ出してきて、俺は堪らずに墨星を抱き寄せて、接吻していた。
 クソ! こんなに愛してるのに、その記憶が無い状態で抱いてたのかよ! 覚えていたなら、もっとあんなことやこんなことをしていたのに! と己を責めながら。
 けど、墨星に『皆が見てる』と止められて、渋々だが諦めた。

 クソ……! 早くこいつを抱き尽くしてぇ!
 二十年愛してたんだから、少しぐらい待てと言われても、今の俺は発情期の犬みたいに墨星を愛することしか考えられなかった。
 それぐらい、記憶と愛情の濁流に飲み込まれてたのだ。

 それから俺は青龍門派の門弟達に何度もしつこく懇願され、老大におさまることになったわけだが……。

 窓辺から街を見ている墨星が可愛すぎて、仕事にならねぇ。

 墨星が「わ~! ハトだ~」とか「車っていうの、いっぱい種類あるんだな~」とか、可愛いことを言うので、ムラムラして困る。
 惚れた奴の普通の台詞でサカるなんて、思春期かよ!

 こうして俺は可愛い秘書(アホだが。そこも可愛い)を連れて、老大としての仕事に邁進するのだった。