闇オークションに出品された人魚のオレ、落札したマフィアに溺愛されちゃってます!? ~神海SIREN暗部界~

 「墨星!」

 伏竜の声がした。
 鳳雛が、ティグルが、冥が身構える。
 鋭い痛みにオレが胸を押さえようとすると、ねえちゃんは『じっとしてて!』と、オレの胸の焼き印を切り剥がした。

 べりり、と音をたてて皮が剥がれる。

 「うああぁあああああああああああ!」
 「墨星!」
 血が噴き出し、倒れ込むオレを伏竜が受け止めた。

 「ね……ちゃ……、何を……」

 問いかけるオレに、ねえちゃんは剥がした焼き印を掴み、その後に老大を抱きしめた。

 『墨星、ありがとう。愛する人と幸せにね』
 「何を……」

 オレが問いかける前に、ねえちゃんは骨だけになった足を引きずるようにして、老大ごと地下へと飛び降りようとする!

 「ね、ねえちゃん!?」
 『ごめんね……墨星……。それでも私、この人を』

 ――愛しているの――と言い残し、ねえちゃんは老大と共に遥か彼方の地下へと身を投げる。

 「ねえちゃぁあああああああああああああん!」

 オレが駆けよろうとするも、伏竜に止められる。

 しばらくの後、ぐじゃり、と肉が潰れる音がした。

 嘘、だろ……?

 「白月ねえちゃん……? 嘘、だよな……?」

 皮も肉も剥がされて、他人の為に使われて!
 あんなに酷い目に遭わされて、それでも愛してたっていうのか!?

 「ねえちゃ! ねえちゃあん!」
 オレが追いかけて覗こうとすると、先に確認していたティグルが告げる。

 「……モーシンは、見ない方がいイ。完全に死んでいル」
 「うわぁああああああああああああああああああ!」

 オレは泣いた。
 涙が枯れるんじゃないかってくらい泣いて泣いて泣き尽した。

 小さい頃から一緒で、親がわりだった、ねえちゃん。
 オレより老大を選んで死んだ。
 それがショックで仕方なかった。

 「ねー……ちゃん……ねえちゃあん!」
 「墨星……」
 それでも伏竜が慰めてくれたから、絶望せずに済んだのだろう。

 ようやくオレが泣き止んでから、伏竜に手を借りて立ちあがる。

 残された美花の遺骸については、あんなに興味津々だった鳳雛は「燃やそうか」と提案してきた。
 お前、何か企んでるのかって、伏竜に胸の手当てをされながらオレが問いかけると、鳳雛は笑う。

 「鳳雛にも情緒というものがあるのさ」

 こうして、オレ達は冥に手配してもらって、美花を弔った。
 ねえちゃんと老大の弔いも、直ぐにしてくれるらしい。

 オレの胸の傷は鳳雛に治してもらったけど、痕は残ってしまった。


 工場を後にして、車に乗り込む時、オレは伏竜を見つめた。
 あいつもオレだけを見ていた。

 「伏竜……ごめんな、ここでお別れで……」
 「……墨星……」

 オレは玄武門派へ行く約束は胸の焼き印の呪いが無くても有効だ。
 伏竜に抱きしめられた。
 オレも伏竜を抱きしめる。

 「絶対、手前を買い戻す!」
 「伏竜……! オレ、待ってるから! いつまでもいつまでも、待ってるから!」

 そうしてると、冥が「いらないのです」とか言い出した。

 「は?」
 「何だと?」

 オレと伏竜が問い返すと、冥は膨大な紙の束を取り出した。

 「青龍門派の老大が研究していた人魚と人間の移植の実験データを見つけましたのです。持ち主も研究対象も死亡。なら、継承権は人魚にあるのです。この貴重なデータを頂くかわりに、人魚は対価として放流するのです。親族の弔いもサービスなのです」
 「え」

 オレがアホ面をしてしまう。
 「たまにちょっとの人情で商売は完全に成り立つのです」と冥が笑う。
 ぽかんとしてるオレと伏竜の前で、鳳雛が食いついた。

 「何だいそれは! そんなデータがあるのなら、鳳雛に売ってほしいのだよ!」
 「対価をいただきたいのです」
 「極上の霊石複数でどうだい?」

 商売の話になってるけど、ティグルが止めた。

 「モーシン、ケガしてル。早く休ませたイ」

 皆で車に乗り込もうとした時、伏竜に腕を掴まれた。

 「どした? 伏竜」
 「墨星……?」

 伏竜の目が今までよりも熱を帯びる。そして抱きしめられた。

 「馬鹿野郎! ムチャしやがって!」
 「わわ! 何だよ急に! って、んぐーっ!」

 熱烈なキスをされ、オレが暴れる。
 でも伏竜はオレを離さなかった。

 「……全部……全部思いだした……」
 「遅! 思いだしたのか!?」
 「ああ。ガキの頃のオレを助けてくれた、間抜けな人魚……。10億で競り落としたお前を惚れさせるって、誓ったあの夜を」

 ようやく伏竜の記憶が戻った!
 しかも伏竜は海でオレが鮫から守ったことも覚えてたらしく、今までの記憶と併せて離そうとしない。

 「すまねぇ、墨星。辛い想いをさせちまったな……」
 「平気だって! ずっと伏竜が傍に居てくれたし!」

 オレがニカッと笑うと、またキスされた。車のボンネットっていうところに押し倒されて、首にも肩にもキスされていく。上着に手を差し込まれ、乳首に触れられた!
 今にも交尾しそうな勢いの伏竜に、オレが騒いだ。

 「わ~! 伏竜! みんな見てるから!」

 伏竜の胸をぽかぽか叩くと、鳳雛、ティグル、冥がそれぞれコメントする。

 「ケダモノだねぇ~」
 「モーシンが幸せなら、それでいイ……。でも、辛イ……」
 「ウチの車で何してやがるですか」

 そんな皆に伏竜は、しれっと答えた。

 「なんだ、手前ら居たのか」 

 こうして、長い夜は過ぎていったのだった。