闇オークションに出品された人魚のオレ、落札したマフィアに溺愛されちゃってます!? ~神海SIREN暗部界~

 それは、見ているだけで息を飲む光景だった。

 パキィン! カンッ! パシィッ!

 伏竜の剣と老大の剣がぶつかり合い、甲高い音を立てる。

 「疾!」

 老大が術を放つ。それを伏竜は剣で防ぐ。その勢いで回転して老大に襲いかかる。
 その一撃も老大は弾き返す。伏竜が後退するも、直ぐに立ち向かって行った。

 一瞬でも気を抜けば刺し貫かれてしまいそうな勢いの中、冥が術を使おうとした。
 それをオレが止める。

 「駄目だ!」
 「どうしてです? 伏竜が死ぬと人魚も死んでしまうから困るのです」
 「伏竜は死なない! オレはそう信じてる!」

 そう言ってると、鳳雛が「二回も双修したんだ。相当の霊力が漲ってる」と、本気なのか茶化しているのかわからない発言をする。
 そんな中、ティグルがオレに言った。

 「モーシン、姉を助けよう」
 「で、でも、ねえちゃん、人間になっちゃってるから、海に還れな……」
 言いかけてオレは気づいた。

 腰に吊り下げられたナイフの存在に!

 そうだ、ねえちゃんが老大を刺して返り血を浴びれば……!

 「わかった! 行こう!」

 オレはナイフを取り出し、ねえちゃんの水槽に駆け寄ろうとする。

 「人魚には近づかせんぞ!」
 老大の剣がオレを狙ったけど、それを伏竜が弾く。

 パキィン!

 目の前で火花が散って怖かった。
 けど、オレは止まらずに駆け上った。
 冥が防御陣を張ってくれたし、ティグルの威嚇射撃で老大はオレに近づけない。

 (待ってて! ねえちゃん! 必ず海に還すから!)

 そうして辿り着いた水槽。
 オレは水槽を叩いて、ねえちゃんに必死に語りかけてた。

 「ねえちゃん! ねえちゃん! ねえちゃんってば!」

 埒が明かないオレを鳳雛が押しのけて「開!」と唱える。
 すると、ねえちゃんが、ゆるゆると瞳を開けた。

 『墨星……』
 懐かしい、ねえちゃんの声にオレは涙を滲ませる。

 「ねえちゃん! 逢いたかった! 今、ここから出すからね!」

 ナイフの柄でガンガン叩いてヒビをいれようとすると、ねえちゃんが謝る。

 『ごめんね……墨星……。私、こんな姿になっちゃって……』

 割れた水槽の中から、ねえちゃんが倒れるように出てきたので、オレがそれを受け止める。でもねえちゃんはオレより大きかったから、ティグルが支えてくれた。

 『墨星……』
 「大丈夫だよ! ねえちゃん! このナイフで老大を刺して返り血を浴びれば人魚に戻れるんだって!」
 『!』

 ねえちゃんが目を見開いた。
 冥がすかさず付け足す。

 「対価を頂ければ、海での安全も保障しますです。快適な水槽も玄武門派なら用意できますです。姉弟揃って来てもらえると助かるのです」

 鳳雛は美花の死体の方に釘付けなのか、大喜びだった。

 「見たまえ! 死体なのに人魚の血肉を移植された部位は腐敗もせずに生き生きとしている! あぁ、墨星を玄武門派から借り受けた時には、すみずみまで調べたいものだ! 朱雀門派で初めての研究になるだろうね!」

 その言葉にねえちゃんがオレの腕を掴んだ。

 『墨星! 貴方、玄武門派と朱雀門派に行ったの? そこには近づいちゃダメって言ったでしょう?』
 「で、でも、オレ……」

 ねえちゃんに逢いたかったから……。
 言い淀むオレに、ティグルが肩を掴んだ。

 「モーシン、貴女の為に玄武門派の焼き印の呪いを受けタ。全て貴女の為ダ。怒らないで欲しイ」
 「伏竜の為でもあるのです」
 冥がつけ足す。

 それを聞いたねえちゃんは、オレの両足を見て頷いた。

 『そう……、墨星、貴方にも愛する人が出来たのね』
 「う、うん。伏竜の為なら……何だって出来るなって……」

 そこでカシィィィィンと甲高い音がした。
 老大が剣を振り回し、こっちに近づいてきていたのだ!

 「美花に触るなぁあああああああああああああ!」

 狂ったように叫ぶ老大の目は、カッと見開かれていた。
 鳳雛が剣を避け、冥がねえちゃんを、ティグルがオレを庇う。

 剣をムチャクチャにブン回す老大に誰も近づけずにいた時――老大の剣が弾かれ、宙を舞った。
 それがオレたちの足元に突き刺さる。
 そして、老大の背中からは伏竜の剣が生えていた。

 「船での借りは返したぜ」

 伏竜が告げると、老大は膝をつき、そのまま倒れ込んだ。
 でもまだ這いずって、美花の死体に手を伸ばしている。

 「美花……私の美花……お前を……蘇らせるまでは……」

 伏竜がとどめを刺そうと剣を振り上げた時、オレは待ったをかける。

 「伏竜! 待ってくれよ! そいつの血を浴びれば、ねえちゃんが人魚に戻れるんだ! だから、トドメはねえちゃんに、このナイフでやらせてくれ!」

 オレはねえちゃんにナイフを差し出し、老大を指さした。

 「ねえちゃん! ねえちゃんだけでも海に還ってよ!」
 『墨星……』

 そうしてねえちゃんがナイフを受け取った。

 ……はずだった。
 ナイフが転がって、地の底へ落下する。

 え……?

 老大の剣を握ったねえちゃんが、オレの胸を刺していたのだ。

 「ねー……ちゃん……?」
 『墨星、ごめんね……』