闇オークションに出品された人魚のオレ、落札したマフィアに溺愛されちゃってます!? ~神海SIREN暗部界~

 「ね え ち ゃ ん!」

 ねえちゃんが、ガラスで出来た水槽の中に目を閉じて浮かんでた!

 でも、ねえちゃんの胸から下は骨だけしかなくて……!

 そんな姿で、ゆらゆら浮いていたのだ。
 その状態でも生きているのか、時折ピクピク動いている。
 その姿が、あまりにも惨すぎて、オレは見ていられなかった。

 「ね……ねえちゃん! ねえちゃあぁあん!」

 オレが泣きながら走り寄ろうとすると、伏竜が止める。
 その手をオレは振りほどこうとした。でも……。

 「は、離してくれよ! 伏竜! ねえちゃんが! ねえちゃんが!」
 「落ち着け墨星! 水槽の裏に人が居る!」

 伏竜の言葉通り、水槽の裏から男が姿を現した。
 コッ、コッ、と足音を立てて。

 「まったく、足止めも出来ないか。使えない下郎どもだ」

 そこに立っていたのは――青龍門派の老大のおっちゃんだった。

 「老大!」

 伏竜が叫んだ! 記憶が戻ったのか!
 それを聞いた老大は首を振った。

 「やれやれ……船で刺した時に『大切なものから忘れる』捜魂をかけたのに、私を見てアッサリと思いだしたか。お前の忠誠心も、たかが知れたものだな、伏竜」

 伏竜を後ろから刺して海に落としたの、こいつだったのかよ!
 伏竜は沈む船の上で、必死に老大を捜していた。
 伏竜が信頼して、忠誠を尽くしてたのに、こいつ……!
 オレがいきり立つも、伏竜は落ち着いていた。

 「そうじゃねぇ! 墨星の犠牲があったからだ! それと、アンタ、人魚を使って何してやがる!」

 伏竜はオレのことは忘れたままみたいだ。
 でも、大切なものほど思いだせないってことは……。
 と考えていると、伏竜の問いかけに老大は両手を仰々しく上げた。

 「最愛の妻、美花(メイホア)を蘇らせる為だ!」

 老大が水槽の奥にあったカーテンを引く。

 そのベッドには、横たわる女性の遺骸があった。
 どうして死んでるかわかったかと言うと、女性は胸から上が白骨化していたからだ。
 つぎはぎだらけの死体に、オレは瞬時に事態を察して怒鳴った。

 「お前! ねえちゃんの体をそいつに使ったな! ねえちゃんの体を返せよ!」
 しかし老大は声を上げて笑う。

 「ハハハハハハ! この体はもう、美花のものだ! ああ、そうそうお前の姉は実に愚かだったよ! 自ら私に近づいてきたのだからね!」

 老大が言うには、奥さんを亡くして入水しようとした時、ねえちゃんに出逢ったらしい。
 ねえちゃんはそれで、こいつに捕まったんだ!

 「ねえちゃ……ん……」

 もうこれだけ肉も皮も剥がされたねえちゃんじゃ、海に戻れない。
 泳ぐ為の尾が、二本の骨の足になっていたからだ。尾びれも背びれも無い……。

 「ねえちゃん! ねえちゃああん!」

 涙を流すオレの肩を伏竜が抱いた。
 その胸にオレはしがみつく。

 それを見た老大は嗤った。

 「伏竜、お前も双修に人魚を使ったか! 確かに霊力が上がっているな!」
 「使ってねぇ! 俺は墨星を愛してる!」
 「愛! ふははははははは! 人外相手に愛! 笑わせてくれる!」

 そこで門弟達を片付けたらしい、鳳雛達が駆けつけた。

 「墨星!」
 「モーシン、フーロンも無事カ?」
 「傷とかつけないでくださいね。ウチの売り物ですから」

 皆を前に老大は演説するみたいに語る。

 「薄汚い門徒どもが! 一昔前の四門派の争いで、美花は貴様らに犯され、殺された! だから潰し合うように仕向けたというのに協力し合うとはな! 愚か者どもが!」
 そこで鳳雛らが応じた。

 「その頃に鳳雛は、まだ老大になっていないのだよ」
 「ティグルもダ」
 「冥もです。そもそも女性に乱暴なんてしませんです。売り物ですから」

 そこで伏竜が剣を出すと、老大に向けた。

 「もういい。アンタのことは尊敬してたが、今、軽蔑と憐みに変わった。死んでもらう!」
 「伏竜! 私の右腕面をして、裏切った愚か者! 船でどうして、禁忌の料理を食べた! 毒さえ食べていれば、霊力を使えずに鮫のエサになっていたものを!」
 「食ってねぇよ! オレは今の今まで、アンタの忠実な部下だった!」

 それでオレは思い当たることがあった。

 月餅だ!

 修仙者は食べちゃダメって言われてた月餅……。
 オレが水槽の中で月餅をボロボロこぼして食べてた水――それを伏竜にぶっかけてた!
 あの水を伏竜は飲んだから、毒が解除されてたんだ……。

 部下ごと船を沈め、それを四門派の所為にして、潰し合いをさせようとしていたらしい老大。

 「まさか四門派で協力して私に歯向かうとはな! 伏竜! どこまでも忌々しい男だ!」
 「うるせぇ! とっとと、そのおしゃべりな口を閉ざせ! 俺にこれ以上、あんたを軽蔑させるんじゃねぇ!」

 皆が構えるが、伏竜は「俺が殺る!」と剣を構える。
 老大も剣を手の平から召喚すると、伏竜に向けた!