神海SIREN暗部界

 オレは眠る伏竜にそう告げて、部屋を出た。
 行く場所は決まってる。

 オレは赤く長い絨毯の先にある、冥の部屋に向かっていた。

 ドアをノックすると、冥が顔を出す。

 「……来ると思ってましたです」

 室内に招かれる。そこには鳳雛も居た。
 二人で『ぽーかー』っていう、札を集めるゲームをしてたらしい。
 鳳雛がニヤリと笑う。

 「来ると思っていたよ」

 二人で同じこと言うなよな……気持ち悪い。
 オレは冥にナイフを差し出す。

 「これ、使わないから返す」
 しかし冥は首を振った。

 「返品は受け付けてませんのです」
 「コレいらない」
 「返品は受け付けてませんのです」
 「使わないって言ってるだろ!」
 オレが苛立って告げると、鳳雛が優雅な振る舞いで立ち上がる。

 「もし、また伏竜に忘れられたら? そして伏竜がキミ以外の誰かを愛したら? キミは海の泡になって消えてしまうのだよ? 悔しくはないのかい?」
 そうくると思ってたから、オレは言い返す。

 「その時は……仕方ないって諦める。伏竜を殺すくらいなら、オレが死んだ方がマシだ」

 伏竜はオレの為に破門して、仲間だった奴らまで殺した。
 居場所を全て捨ててまで、オレを選んでくれたんだ。

 それを聞いた鳳雛は含み笑う。

 「やれやれ、熱心に抱かれただけで、ほだされたものだ。淫乱な人魚とは思えないね」
 カアッと顔が赤くなって、オレはナイフをテーブルに叩きつけるように置いた。

 「とにかく、いらない! それとオレ、玄武門派に行くから!」
 二人がオレを見る。

 「だから伏竜の記憶の在り処と、姉ちゃんの居場所を教えてくれよ!」

 これがオレの本題だった。
 伏竜の記憶が蘇れば、帰る場所も見つかるかもしれない。
 優しかった姉ちゃんも故郷に還れるはずだ。

 「後悔しませんですか?」
 冥は表情を変えずに再確認してきた。

 「……する、時もあると思う。でも、伏竜とねえちゃんの方が大事だから……」

 オレは正直な気持ちを告げる。
 二人が穏やかに過ごせれば、オレはそれでいいんだ。

 また……輪姦されたりするかもしれないけど、でも、伏竜にいっぱい愛してもらえたから、その思い出だけで生きていける。

 『好きだ』って言ってもらえて、嬉しかったから……。

 すると冥は「契約成立です」と言うなり、鞄から鉄の棒状の器具を出してきた。何それ?
 冥は器具をオレに見せる。

 「玄武門派の正式な奴隷となることを示す、焼きゴテです。鳳雛、人魚を押さえていてくださいです」

 焼きゴテが何なのか、オレは直ぐに理解した。
 冥が暖炉で焼きゴテの先端を炙る。オレは鳳雛に両腕を掴まれていて動けない。
 そこで、冥がオレの胸元を開き、熱く焼けた鉄の塊を近づける。

 そして、皮膚に耐えがたい痛みが走った。

 「あぁああああああああああぁあああああああ!」

 肌が焦げる臭いと、ひりつくような裂けるような激痛。
 それが永遠とも思える時間、続いた。
 暴れるオレを鳳雛が押さえつける。
 正直、逃げ出したかった。
 でも、出来なかった。
 伏竜とねえちゃんの顔が浮かんだからだ。

 (二人が幸せなら……! オレ、どうなってもいい!)

 そうして焼きゴテの苦痛が終わった時、オレは床に崩れ落ちてた。

 「あ……、う……」

 床でピクピクしてるオレを鳳雛も冥も気にせずに会話していた。

 「冥、墨星は貸出自由かい? なら朱雀門派で『使わせて』もらいたい。最近、性奴隷の質が悪くてね。門徒の霊力が上がりにくいんだ」
 「貸出なら霊石と、ある程度の資金で対価として成り立つのです」

 もうオレで商売始まってる……くそっ……。そう思いながら意識が遠のく。

 そこで扉が激しく開いた。

 「墨星!」

 伏竜だ。
 オレがいないのに気づいて急いで来たのか、上半身裸のままだった。
 伏竜に抱き起こされたオレは、胸に焼き印があるのを見られてしまった。

 途端、伏竜が怒号を上げる。

 「手前ら! 墨星を言いくるめて玄武門派の奴隷にしやがったのか!」
 「言いくるめてないのです。人魚から部屋に来たのです」

 冥の言葉に伏竜がオレを見る。
 オレは何とか笑顔を作って伏竜に応えた。

 「か、勝手なことして、ごめん……。でもオレ、オレ……伏竜に還る場所、思いだしてほしくて……イテテ……」
 そこで伏竜に抱き寄せられた。胸の傷に障らないようにして。

 「馬鹿野郎! 俺の還る場所は手前だ!」
 「……!」

 そう言われて嬉しくて涙が出た。
 けど伏竜はオレが痛みで泣いてると思ったらしい。
 オレを優しく横たえると、手の平から剣を出して冥らに向ける。

 「手前らブッ殺して、こいつを連れて逃げりゃあ問題ねぇよな」

 鳳雛が呆れたように肩をすくめる。

 「やれやれ、二門派の老大二人を相手にして逃げれるとでも?」
 「冷静になるのです。青龍門派からも追われている身で、逃げる場所などないのです。それに焼き印は『呪い』なのです。何処に居ても居場所がわかるのです」

 そこでドアの向こうから「なら、白虎門派が二人、匿ウ」と、ティグルが現れた。