神海SIREN暗部界

 そいつは長身の黒髪で、目元に包帯を巻いていた。
 何よりも目立っていたのは、左頬から首下まで伸びる蛇のタトゥーだ。
 漆黒の衣装を身に纏っている。

 そんな奇妙な姿なのに、美丈夫なのが伝わってくる出で立ちだった。
 男は、ぺこりと頭を下げる。

 「ウチは玄武門派の老大、(ミン)です。よろしくです」
 「玄武門派のボス!? なんでそんな奴がいるんだ!?」

 オレが伏竜に抱えられながら告げると、鳳雛が付け足した。

 「言っただろう? ツテがあると。この場所も冥に対価を払って教えてもらったのさ」
 「……それでも……時間がかかっちまった……」

 悔やむように告げる伏竜の姿に、オレは胸がズキンと痛む。
 伏竜の所為じゃないのに。オレが弱いからなのに。
 そう言ってポロポロ泣くと、ティグルが辛そうな顔でオレの涙を拭ってきた。

 「モーシン、疲れてル。休ませたイ」

 すると冥が「玄武門派の縄張りの宿を用意してますです」と方角を指さした。
 これも鳳雛が手配したらしい。悔しいけど、デキる男だ。

 オレが伏竜の腕から下りようとしたけど、何故か伏竜はぎゅっとオレの体を掴んで、離さなかった。

 「伏竜……?」
 「……」

 伏竜は無言だった。けど、オレの体を抱く腕に力がこもっている。
 恥ずかしいけど、お姫様抱っこのまま移動する。

 そうして冥が鳳雛の依頼で手配した、タテに長い車に乗って、オレ達は宿へ向かうこととなった。

 ◆◆◆

 玄武門派の縄張りは、雑多に店が並ぶ賑やかな地区で、派手な色のネオンっていうものがチカチカ輝いている。看板が所狭しと地上と空を多い、息苦しいくらいだった。

 「わー、ハデハデだぁ~」

 冥が準備したオレが感想を漏らすと、助手席の冥が淡々と答える。(運転は冥の部下がしてるらしい)

 「玄武門派は商売繁盛第一なのです。競い合うように看板が乱立した結果、ちょっとした名物になっているくらいなのです」
 窓に張りついて見ていると、あっという間に宿に着いた。

 車から下りようとすると、また伏竜に抱きかかえられた。

 「ちょ、恥ずかしいだろ!」
 オレは鳳雛の術のお陰で体は回復していたので歩ける。
 でも伏竜は「いいから抱かれてろ」と低い声で告げた。

 「う、うん……」

 頷いたけど、伏竜……やっぱ怒ってるのかな……。オレ、足手纏いになってばっかだし……。
 落ち込んでると、鳳雛がクスクス笑った。

 「素直じゃないね。心配だから抱いているのさ」

 ティグルも頷いた。

 「モーシン……、フーロンの腕の中だと、安心してル」

 そ、そんなことないし……! と言いかけて、オレは宿を見上げて、ポカンとする。

 今までの宿は何だったんだってくらい、超高層ビルってやつだったのだ。

 鳳雛が予約したホテルは超一流のセキュリティと設備を誇る? らしく、恭しく出迎えられた。何これ。海の中にこんなの無かった……!

 エレベーターとかいう動く箱に乗って、最上階の部屋に案内される。
 ガラス張りの部屋から見る下界の光景は、オレが海から見た地上の景色みたいにキラキラしていた。
 ふと、感慨にふける。

 (あの頃は良かったな……。地上は鮫もいなくて、食べるものにも困らなくて、自由で綺麗な楽園だと思ってた。実際はマフィアが闊歩して、暴力と血にまみれて……。)

 いやいやいや! 今はそれよりも伏竜の記憶と、ねえちゃんのことだ!

 オレは伏竜に抱きかかえられたまま、冥に話しかけた。

 「冥! 伏竜の記憶を戻すのと、ねえちゃんの居所を教えてくれよ!」

 すると冥が手を差し出す。

 「対価を頂きたいのです」
 「は?」

 思わず動きが止まる。
 だが、冥は表情を変えずに繰り返す。

 「対価を頂きたいです。玄武門派は対価なくして動かないのです」
 「そんなこと言わずに! あっ、金なら鳳雛が出すから!」
 「他人の金をアテにしないでくださいです。しかも足りませんのです」

 えっ……?

 鳳雛を見ると、あいつは「極上の霊石数個と数百万は準備してきたがね」と光る石と札束を見せるけど、冥は首を振った。

 「足りませんのです」
 「ケチ!」
 オレが伏竜の腕の中で怒って暴れるも、冥は淡々としていた。

 「情報源が危険すぎて、霊石や金銭程度では話せないのです。でも……」

 冥がオレを指さす。

 「人魚と引き換えなら、対価として成立するのです」

 え……?