神海SIREN暗部界

 普通に『鳳雛から貰った』と言えばいいのに。

 そう言えば捨てられるのがわかってるせいか「オレも……しゅ、修行しようと思って!」と嘘をついていた!
 あーっ! もう! 何で嘘なんてついちゃったんだよオレ! ばかばかばか!

 「あ、あの、その、だから、オレ……」

 嘘をついてしまった心苦しさでオレがどもる。
 そうすると、ティグルの大きな手で頭を撫でられ、伏竜に感心された。

 「モーシン、偉イ。好きダ」
 「ふーん……ただのガキかと思ったら、根性据わってきたじゃねぇか」

 ずきり、と胸が痛む。

 そうじゃないんだ。

 オレ『伏竜を殺すなんて出来ない!』って即答出来なかった弱虫なんだ。
 人魚に戻れば、もうこんな怖い地上から、おさらば出来て、ねえちゃんを捜せる。
 ねえちゃんや、にいちゃんと皆で……。
 そしたらまた、海で穏やかに幸せに暮らせるって……。

 怖い目に遭いたくないから、死にたくないからって――。

 自分のことばっか考えてる、ズルくて最低な奴なんだ!
 でも伏竜もティグルも優しい反応で……。
 そう思うと、ぽろぽろ涙がこぼれてきた。

 「うあぁあああああああああああん!」

 二人がビックリして、伏竜が屈みこむ。

 「モーシン、どうしタ? ドコか痛いのカ?」
 「何ガキみてぇに泣いてんだ」

 そう言いながら見つめる伏竜の片目にはオレを案じる色が確かにあって……。
 オレは伏竜の胸にしがみついて、わんわん泣いた。

 殺せるわけない。

 どれだけ地上が怖くても、ねえちゃんに逢えるのが遠回りになっても、伏竜が誰かを愛して、オレが海の泡になってしまうとしても……。
 こいつを殺して海に逃げるなんて、今のオレには出来ないって思ったのだ。
 伏竜の脈打つ心音を聞きながら、オレは何度も自問自答する。

 伏竜は驚きつつも「ガキかよ……」と苦笑しながら、オレの背を撫でた。
 その指先は、手つきは、確かにあの砂浜での双修の時の優しい温度があって、オレはまた泣いていた。

 ◆◆◆

 鳳雛が忍び込んでくるからという理由で、オレはベッドが3つある部屋に通され、左右を伏竜とティグルに挟まれて寝ることとなった。狭ッ!

 「落ち着かないなぁ~」

 オレがブーブー文句を言うと、伏竜に咎められた。

 「じゃあ鳳雛に好き放題されてぇのかクソガキ。クソッ! アイツ、鍵開けまで出来んのかよ。強盗じゃねぇか」

 なんでここまでして鳳雛を連れてくのかというと、伏竜もティグルも玄武門派にツテがないからだ。
 伏竜は借金背負って記憶も失ってるから論外だし。
 白虎門派は弱い者の味方らしく、金も霊石も四門派で最も手持ちが無いんだとか……。
 正義の味方って、貧乏なんだなぁ……。

 「すまない、モーシン……。ワタシ、不甲斐なイ……」

 ティグルはベッドに腰かけたまま、しょんぼりしている。

 そんなことないって! オレなんか無一文だし、伏竜なんか10億の借金背負ってんだぞ! と励ますと、伏竜に『そんな記憶はねえ』と怒鳴られたし、ティグルには抱きつかれた。
 (伏竜に引き剥がされたけど)

 でも、そんな二人にオレはベッドの上に立って胸を張る。

 「フッ、しょせん鳳雛は金ヅルだからな! さんっざん利用するだけして、後はポイだ!」
 「何処にかね?」

 鳳雛の声にオレが飛び上がる。
 鳳雛がオレのベッドの下から、ずるりと出てきた。キャアアアアアアアアア!!
 オレが女の子みたいな悲鳴を上げてる間に伏竜とティグルが身構えて、オレと鳳雛の間に入る。

 伏竜が剣を出し、ティグルが銃を向ける。

 「ホラーの怪物か! 手前は!」
 「フォンチュ、やっぱり殺ス!」

 いきり立つ二人に、鳳雛はオレのベッドに横になりながら、楽し気に告げる。
 やめろよ! そこで寝るのオレなんだぞ!

 「鳳雛だけ仲間外れなんて酷いじゃないか」

 酷くないだろ。今までお前がしてきたことの方が酷いよ、と言いたいけど言ったら何かされそうで怖くてオレは伏竜の背中に隠れる。

 それで、伏竜が少し驚いたみたいな顔をした。な、何だよ? お前の側が一番近かったんだから仕方ないだろ! 好きで隠れたんじゃないし! かっ、勘違いしないでよね!


 何とか鳳雛を部屋から追い出し、オレ達はベッドの下や天井裏まで確認して、ドアと窓に板まで打ちつけた。鳳雛……災害級修仙者ってやつだな……。

 そうしてようやく眠れることになった。
 色々あったなぁ~と思いつつ、うとうとする。
 伏竜とティグルは警戒してるみたいだったけど。

 (でも……)

 ……ナイフのことは、一旦おいておこう。

 もしかしたら、オレが伏竜を殺したくなる程キライになる日がくるかもしれない……。
 伏竜が誰かに恋をして、オレは海の泡になるのが怖くなるかもしれない。

 そうやってオレは重要な選択を考えることをいつも後回しにしていた。