私が髪を拭いていた布を置きに行くために席を外すと、ジョサイアはソファに寄りかかり眠ってしまったようだ。

「まあ……だいぶ……疲れていたものね」

 いつもは隙のない様子のジョサイアが初めて見せる可愛らしい寝顔に、思わず顔が緩んでしまった……とはいえ、非力な私では彼をベッドまで動かせない。扉の前に居る護衛に移動を頼もうとした時に、小さな声でジョサイアが呟いたのが聞こえた。

「行かないでくれ……」

 ――あ。

 私はその時に……やっぱり、ジョサイアはオフィーリア様のことを忘れられていないのだと悟った。今まで彼はずっと、彼女に会いに行くことを、我慢していたのかもしれない。

「……ごめんなさい」

 私はもっと早くに、この事に気がつかなければいけなかったのに。真面目なジョサイアは私と結婚して、裏切ることは出来ないと思っているだろうし……。

 どうしてだろう……さみしいと思ってしまうのは。

 これは、契約結婚で一年後に離婚することは、わかってたはずで……だから、それが少し早まるだけの話で……。

「……ジョサイアは、素敵な人だもの。仕方ないわよね」

 ぽつりと独り言で呟いて、本当にその通りだと思った。

 素晴らしい外見だけでなく、真面目で仕事熱心、人柄も信頼できる。それに、配偶者には甘すぎるほどに、優しくて誠実だ。

 自分で最初から彼に線を引いて置きながら、失うと思えば惜しくなるなんて……子どもみたいで、なんだかそんな自分が情けなくて、また笑えてしまった。