あの……最低最悪な元婚約者から婚約破棄をされて、本当に良かったと今でも心から思っている。

「ええ。僕も存じております。ドラジェ家のご令嬢が城の大広間の夜会中に婚約破棄を言い渡され、その相手にホールケーキを投げつけたというお話は」

「ふふ。見事、顔に命中致しましたわ」

 あら、あまり社交場に顔を出さないモーベット侯爵も、流石にこれは知っていたのねと私が微笑み肩を竦めれば、隣に居た叔母は額に青筋を貼り付けながら、ふんわりと広がるドレスの中で私の靴先を踏みつけた。