連れだって一緒に来た夫のジョサイアは、またしても慣れた様子で、白髭を蓄えた劇場の支配人と何か話をしている。

「……ありがとう。僕は葡萄酒を用意してくれ。妻は……レニエラ。飲み物は何が良い?」

 貴族の使用する個室のような桟敷席では飲食が可能で、飲み物をどうするか聞かれた。

「わっ……私も、彼と同じもので!」

 ジョサイアは慣れた様子で私の肩を抱くと客席に導き、私の隣へと腰掛けた。

 ……嘘でしょう。確かに、モーベット侯爵家はこの国でも有数の資産家だけど、劇を観るたびに貸し切りにするの?

 信じられないわ。

「あの……」

「どうかしましたか? レニエラ」

 そういえば今日初めて見るジョサイアの着ている外出用の貴族服は、センスの良い彼らしく色味を抑えた灰色のもので、とてもお洒落だった。

 もし、自分の夫でなければ、前髪を下ろして休日仕様の侯爵に、ほうっと見蕩れてとっても素敵な人ねで済んでしまうけど……私は仮初めとはいえ彼の妻として、ここは言わなければならないことがある。

「今日は、貸し切り……なんですか?」