どこからともなくやって来ていた初老の男性は、ジョサイアと旧知の仲のようで、手早く指輪とネックレスを驚いていた私に取り付けた。

 綺麗……確かに、綺麗。豪華で、身に付けているだけで震えそう。これを彼に買って欲しいなんて、私はとても言えない。

「え? ……ジョサイア?」

「レニエラ。気に入りましたか? では、買いましょう。妻にはサイズが少し大きいようだが、どの程度の時間で直せる?」

 近くに居た店員にサラリと聞いたジョサイアに、私は慌てた。

「ま、待ってください! えっと……流石に大丈夫です」

 ドラジェ伯爵家の一年間の収入になるような指輪を、こんなに簡単に即決で購入しようとするなんて、本当に信じられない……けど、流石は資産家モーベット侯爵家なのかしら。

 いくつか事業を展開し、商会も経営しているとは聞いていたけど、一介の貴族として育った私とは金銭感覚が全く違うわ。

「気に入らなかったですか?」

 私の動きに不思議そうなジョサイアに、指輪の金額が気にいらないは言えない……だって、彼はそれを知りつつ、即購入しようとしていたのよ。