襟には何段にも重ねた繊細なレースのジャボが品良く取り付けられ、デザインも流行の最先端を取り入れているし、異国製らしい少々光沢のある高級生地だって気品に溢れていた。

 本当にどこをどう見ても、文句の付けようもない服だわ……。

 私と、多分隣に居る叔母もだけど……モーベット侯爵が「なんて、美しい御令嬢なんだ!」や「こうしてお会いすることが出来て、私はこの国一番運が良いです」などと、寒々しい身振り手振りしながら大袈裟に言い出すのかなと、ふんわり発言を待っていた。

 けれど、モーベット侯爵は、じっとこちらを見つめるばかりで何も言わない。

 もしかしたら、間に合わせで選んだ結婚相手の私が彼の好みには、合わなかったのかしら? ……いいえ。今のモーベット侯爵には、何かで結婚相手を選ぶような贅沢を言っている時間も余裕だってないはずよ。

 彼の発言待ちの微妙な空気の中で、沈黙を耐えきれなくなったのか、叔母がパンと軽く手を叩いて空気を明るい方向へ変えた。