「気にしなくても構いません。公衆の面前で婚約破棄されて底辺まで落ちてしまった私の評判に、一度離婚したという事実が加わるだけですから」

 ただの事実なのにジョサイアは、それを聞いて唖然としてから、とても困った顔になっていた。

 彼は優しくて紳士的だから、たとえそれがまぎれもない事実だとしても、これには安易に同意は出来ないと思ったのかもしれない。

 けど、先方に何か理由があったとしても、私がある男性に夜会中婚約破棄されたという悲劇的な過去は、事実あったことなので消せない。

 私はこれまでに、忘れがたい過去を乗り越えるための努力をして来て、一人だとしても実業家として前を向いて生きていくと決めた。

 ジョサイアだって、それは理解してくれているはずだ。

「……その、例えばですが、レニエラ。もし、君がその時に僕を愛してくれていたら、一年経っても、結婚生活を続けてくれますか」

 慎重な口調で話を切り出したジョサイアに、私は笑って首を横に振った。