ここで僕の気持ちをわかって欲しいと事を急ぎすぎ、何かを失敗してしまうことは躊躇われた。

「僕の求婚をお受け下さり、本当にありがとうございます。君の希望は理解しましたから、とりあえずは、そういう事で。僕と結婚しましょう。レニエラ。よろしくお願いします」

 とにかく、彼女と正式な結婚さえしてしまえば、僕の承諾なしには離婚出来ない。

 君の提案した一年後には、どんなことがあっても離婚をしてあげられないと思う……罪悪感を抱えた僕は、満面の笑みで差し出された小さな手を握った。


◇◆◇


「良い加減。元婚約者のお怒りは、どうにかならないのか。ジョサイア」

 深夜で執務室での僕以外の人払いを済ませた後、ため息をついたアルベルトは顔を顰めてそう言った。

 隣国の関税については、何年かに一度の定期見直しが必要だ。各街道を持つ領主の税収にも影響するため、話し合いが長く掛かることはある。

 だが、重臣によるとここまでごねられたのは歴史的に初めてらしいし、アルベルトはオフィーリアの置き手紙の話を僕から聞いて察した。