本来なら、この会話の主導権は僕が握るべきだ。彼女が結婚を望んだ訳でもない。

 それに、ずるい僕は自分が縁談を申し込めば、彼女は受ける道しか居ないことを知っていた。

 婚約破棄されたという過去は、何も悪くないレニエラに、まるで消えない黒い染みのように纏わり付いた。貴族令嬢としての普通の結婚は、もう絶望的だったはずだ。

 レニエラは、何を言えば喜ぶだろうか。今まではずっと、話しかけることも出来ずに見ていただけだ。彼女はいつも、嫌な男に泣かされていた。

 ずっと君に話しかけたかったけど、今まで婚約者が居たから、それは出来なくて……? そんなことを言う男は、レニエラは嫌ではないだろうか。

 親に決められた女性と結婚をすることは、僕がまだ喋れなかった頃からの約束だ。それを反古にすることは僕には出来なかった。

 オフィーリアとの婚約解消を匂わせた時に両親にもそう言われたし、仕事をするようになった今は自分でも納得していた。

 僕一人の身勝手な感情で、それまでに様々な場所で決まっていた何もかもを、すべて捨ててしまう訳にはいかない。誰にどんな不利益が被るか、全く想像もつかない。