「……誰もあんなことが起こっていたなんて、夢にも思わないでしょうね」

 私は明日、夜が明けてから、偶然に道を通り過ぎている人たちが、柑橘の匂いを嗅いで不思議そうな顔をしているところを想像して、微笑んでしまった。

 私を誘拐したショーンは、結構な速度で道を走らせていたし、カルムは重い樽をいくつも積んだ荷馬車で、必死で追いかけてくれていたのだろう。

「あの樽は、出荷間近だったと聞いているし……君の損害があったなら、僕が言い値で買い取らせてもらうね」

 真面目な顔をしてジョサイアはそう言ったので、私は苦笑するしかない。