ショーンに剣呑な視線を向けられて、私はこくりと喉を鳴らした。頭の中では、これ以上彼に何も言ってはいけないと、甲高い警鐘が鳴り響いていた。

 ショーンは婚約していた時には、軽い暴言は良く吐かれたし、「なんだこれは」と髪の毛だって引っ張られていたことは確かにあった。

 けれど、殴られたことはなかった。今、殴られるかもしれないという恐怖を強く感じた。

 ここで私たちは長い間沈黙し、ショーンは何かを考えているのか、真っ暗な窓の外をうつろな目をして見ていた。揺れる馬車は荒れた道を走っていて、きっとここは整備された街道でもない。

 このまま、彼の好きに……連れて行かれる訳にはいかない。

 ショーンとは、幼い頃から婚約者だった。嫌な奴で乱暴者になったけど、幼い頃に優しくて好きだったという感情は、ずっと消せなかった。

 彼が好きだったからこそ、変わってしまって悲しかった。

 今だって、そうだ。幼かったあの少年の部分がまだ少しでも残っているのなら、もしかしたらまだ……私の話を理解してくれるかもしれないと、心のどこかで期待してしまっている。