「ああ。こっちの馬車に用意してあるから、良かったら来てもらえないか。何。一筆書くだけで、すぐに済むから」

 ショーンは私にそう言って、自分の乗って来たらしい馬車を指し示した。

「わかったわ」

 私の名前を署名をするだけなら、すぐに終わってしまうはず。

 オフィーリア様へ商品例となる各種の精油を急ぎで送らなければいけないけど、それくらいの時間ならば大丈夫だろうと私は頷いた。

「レニエラ。綺麗になったな」

 ショーンはそう言って、馬車に乗り込む私の手を取った。

 そんな紳士的なことを、あのショーンがするなんて! 信じられないわ。もしかしたら、良く似た別人なのではないかしら。

「ありがとう……良い結婚相手が見つかって、本当に良かったわ」

 貴方にあんな風に、婚約破棄してもらったお陰だけどね。今は嫌味になってしまうから、心の中で思うだけだけど。

 ディレイニー侯爵家の馬車は、侯爵位にあるだけ流石に広く高級だった。毛足の長いふかふかとした、ゆったりとした座面。

 長距離移動でも出来そうなくらいに、快適な居心地だった。