「……ショーンは姉さんが結婚したことを知って、国境から慌てて戻って来たんだ。姉さんが居るはずのモーベット侯爵邸では、当たり前だけど、姉さんに会いに来たと言っても門前払いになったから、あいつはドラジェ伯爵家に来たんだ。母さんがショーンから話を聞いて、意識を失って倒れたから、父さんは一緒に医師の診察を待っている……僕はとにかく、連絡を急ぐために、ここへ」

 ドラジェ伯爵家当主お父様の名代ならば、後継者のアメデオが最適という訳だったのね。それならば、納得がいくわ。

「ショーンは騎士として戦果でも上げて名誉を挽回してから、婚約破棄をしたはずの私とやり直そうと? 嘘でしょう。あんなことをされて……好意の欠片も枯れ果てたわ。そんな風になるはずがないのに」

 私はあの屈辱の光景を、まざまざと思い出した。

 大勢の前でしてもないことで罵られ、知らないと言っても否定され、だから私は、覚悟を決めたのだ。

 すべて捨てようと……この手に、ホールケーキを持って。

「そのまさかだよ。男は一度自分のことを好きな女性は、ずっと自分のことを好きだと思っているからね」