「他に誰かいた?」 
「おばあちゃん。お孫さんが小さいときのこと話してたかな」 
「えっ、待ってもしかしてっ──……写真見てほしいっ」
 
 スマートフォンをポケットから取り出して、保存してある写真をいくつか見せてくれた。小学生の頃の彼女とおばあちゃんが寄り添う。まさに駄菓子屋のおばあちゃん、その人だった。

「駄菓子屋のおばあちゃんじゃんっ」 
 彼女はやっぱり、というふうに溜息をつく。
「おばあちゃん、もう亡くなってるの」
「えっ?」
 胸苦しさを覚えた。
 
 ──そうか、そういうことか。
 きなこが現れたのも、おばあちゃんがここに居たのもぜんぶ、もしかしてわたしと彼女を巡り合わせるためだったのかもしれない。 

 話を深めていくと、女の子も同じ中学校で、しかも同じクラスだと知る。学校には行ったり行かなかったりで、中二に進級してからはまだ一度も学校には行っていないと彼女は話す。
 そういえば、ひとつ誰も座らない席があったような気がした。

「名前、なんて言うの?」
菜乃花(なのか)
「私はカタカナでミア。おばあちゃんが付けてくれたんだって」
「へえ、すごーい。ミアちゃんなんて、おばあちゃんセンスめちゃいいね」
「菜乃花ちゃんもすごくかわいい名前だよ」
  
 大福はミアちゃんに両手を伸ばして抱っこを求めた。眠いのか、彼女に抱かれながらウトウトして安心したかのように目を閉じた。

「私、頑張って学校に行こうかな。菜乃花ちゃんがいたら教室も怖くないと思う……たぶん」
「わたしも転校生で実は一人浮いてる感じなんだよね……だから、ミアちゃん」
「うん?」
「わたしと友達になってほしい」
「うん。こちらこそよろしく、菜乃花ちゃん」
 すうすう、と寝息を立てる大福の顔を眺めながら、起こさないように頭を撫でた。



 家に帰るとお母さんは、やっぱりお母さんのまま(・・・・・・・)だった。そんなにすぐには変わらない。期待もしていない。
 けれどいつもと様子が違った。「編み物を始めてみたのよ。難しいけど達成感があって、意外と楽しいわね」と話すお母さんの視線は手元に注がれていた。失敗しながらも真剣に楽しむ姿は滑稽だったけれど、そんなお母さんを少しだけいいなと感じた。

「菜乃花、カレー出来てるわよ。お母さんは食べたから」
「はーい」

 自室の扉を閉めてベッドに寝ころんだ。視界も閉じて瞑想する。

「あっ!」 

 駄菓子屋のおばあちゃんのエプロンから少しはみ出していた黒くて長い影。なんだろうと考えていた。その正体が繋がった。大福の尻尾だったんだ。
 きっと大福は、ミアちゃんに学校に通ってほしかったんだよね。その強い想いが、ミアちゃんのおばあちゃんという幻を作り出した。そしてわたし(・・・)に伝えたかったんだ。
 
 きなこ、ありがとう。
 おばあちゃん、ありがとう。
 わたしをずぅーっと待っていてくれて。