まだ馴染みの薄い校舎を後にした。未明から降り続いている雨は、幾分か雨足が弱まってきた。伸びきれていない中途半端な髪の毛が頬に貼りつく。
「うわっ」
スニーカーが半分くらい水たまりに浸かった最悪。梅雨どきだもの、仕方がないか。雨も必要な場所に届くようにと願いを込めて、傘の柄を握り直す。
ミズクラゲの傘を見上げた。おばあちゃんに雑貨店で買ってもらった、わたしのお気に入り。全体的に水色の傘は透明で、ミズクラゲがてっぺんから覆うように描かれている。裾にかけての放射管の模様も綺麗で、くすんだ青の空にもよく映えていた。
はぁ、それにしても家に帰りたくない。
「今日はこっちから攻めてこ」
そんなわけで、今日も足先の向く方へ歩を進めて駄菓子屋へ向かう。学校にも居たくて居るわけじゃないのだけれど。
中二になる前の春休み。お父さんの仕事上の都合でお母さん、わたしの三人で見知らぬ土地に引っ越して、わたしは見知らぬ学校へ転校した。
転校してもう二ヶ月は経つのに、いまだクラスに馴染めていない。だって、二校の小学校が合わさっての持ち上がりだから、皆は顔見知りも同然なんだもの。県外から来たよそ者の居場所なんて用意されていなかった。イジメられているわけではないけれど、よそよそしい。よそ者感を空気で悟る。今回も転校生扱いされたって、いつものことだからと諦めていた。
さらに家に帰れば、お母さんは開口一番、学校はどうだったとか、先生はどうとか、新しい友達はできたかとか毎日聞いてくる。それがうっとうしいから早く帰りたくなかった。
そのうち慣れるでしょ。
友達かは知らないけど話はするよ。
わたしはそうやって嘘ばかり並べて、話を早く終わらせている。
転校もこれで四回目。お父さんの転勤は仕方がないとはいえ、振り回されるこちらは、いい加減にもう相当堪えている。
近くでチリリと音がした。
「ニャアアァァ……」
「きなこー、元気にしてた?」
尻尾をふくらはぎに絡めてきたので、傘を閉じてしゃがみ込んだ。軒先に入れば雨はかからない。
白、黒、きな粉色の模様の三毛猫は、茶というよりきな粉色に近かったから『きなこ』と呼んでいる。毛は薄汚れてしまっている。悲しいけれど捨てられたのかもしれない。
きなこを抱いて『お母さん、この子うちで飼ってもいい?』なんて言える勇気と、自分が一番正しいと思ってるお母さんを説き伏せられる説得力がわたしにあればな……。
「きなこごめんね、飼ってあげたいんだけどさ……」
「ンニャ……」
首輪についている鈴の音は鈍い音しかしない。わたしから離れたきなこは、ゆったりと雨の中を駆けていった。
「うわっ」
スニーカーが半分くらい水たまりに浸かった最悪。梅雨どきだもの、仕方がないか。雨も必要な場所に届くようにと願いを込めて、傘の柄を握り直す。
ミズクラゲの傘を見上げた。おばあちゃんに雑貨店で買ってもらった、わたしのお気に入り。全体的に水色の傘は透明で、ミズクラゲがてっぺんから覆うように描かれている。裾にかけての放射管の模様も綺麗で、くすんだ青の空にもよく映えていた。
はぁ、それにしても家に帰りたくない。
「今日はこっちから攻めてこ」
そんなわけで、今日も足先の向く方へ歩を進めて駄菓子屋へ向かう。学校にも居たくて居るわけじゃないのだけれど。
中二になる前の春休み。お父さんの仕事上の都合でお母さん、わたしの三人で見知らぬ土地に引っ越して、わたしは見知らぬ学校へ転校した。
転校してもう二ヶ月は経つのに、いまだクラスに馴染めていない。だって、二校の小学校が合わさっての持ち上がりだから、皆は顔見知りも同然なんだもの。県外から来たよそ者の居場所なんて用意されていなかった。イジメられているわけではないけれど、よそよそしい。よそ者感を空気で悟る。今回も転校生扱いされたって、いつものことだからと諦めていた。
さらに家に帰れば、お母さんは開口一番、学校はどうだったとか、先生はどうとか、新しい友達はできたかとか毎日聞いてくる。それがうっとうしいから早く帰りたくなかった。
そのうち慣れるでしょ。
友達かは知らないけど話はするよ。
わたしはそうやって嘘ばかり並べて、話を早く終わらせている。
転校もこれで四回目。お父さんの転勤は仕方がないとはいえ、振り回されるこちらは、いい加減にもう相当堪えている。
近くでチリリと音がした。
「ニャアアァァ……」
「きなこー、元気にしてた?」
尻尾をふくらはぎに絡めてきたので、傘を閉じてしゃがみ込んだ。軒先に入れば雨はかからない。
白、黒、きな粉色の模様の三毛猫は、茶というよりきな粉色に近かったから『きなこ』と呼んでいる。毛は薄汚れてしまっている。悲しいけれど捨てられたのかもしれない。
きなこを抱いて『お母さん、この子うちで飼ってもいい?』なんて言える勇気と、自分が一番正しいと思ってるお母さんを説き伏せられる説得力がわたしにあればな……。
「きなこごめんね、飼ってあげたいんだけどさ……」
「ンニャ……」
首輪についている鈴の音は鈍い音しかしない。わたしから離れたきなこは、ゆったりと雨の中を駆けていった。

