サムはアーロンが帰って来たのなら、あれを誰にも言わずに隠す必要はないと思ったのかもしれない。

「駄目よ……旦那様は気性の荒い方。きっと、とんでもないことになってしまうわ」

 アーロンと義母の激しい言い争いを聞きたい訳でもないし、実家と婚家が揉めることも嫌だった。

 それに、義母は大きな権力を持つ公爵家の人間で、アーロンが国を救った英雄だとしても、逆らえば何をされてしまうか。

 私の実家、エタンセル伯爵家の面々とは、出来るだけ無関係で居たい。

「旦那様は、優しい方ですよ。怖く見えるかもしれませんが、あれは職業上仕方のないことなのです。敵にも部下にも舐められる訳にはいきませんから」

 私はアーロンと一緒に居ると、ただそれだけで、そわそわして落ち着かない。いつ怒鳴り出すかわからないから恐ろしいだけなのか、それとも……。

「あれは、アーロンがわざわざ怖いと思われるように、周囲に見せていると言うことなの?」

 アーロンには夜会の時に、なんてドレスを着ているんだと怒鳴りつけられた。あの時は怖かったし、言い分など何も聞いてくれなさそうな雰囲気が義母に似ていた。