目下の心配のタネだったヒルデガードも居なくなり、サマンサが産んだ男の子の泣き声も聞こえなくなった、静かなキーブルグ侯爵邸の庭園で、私は一人ぼんやりしているだけ。

「奥様……手の具合は、いかがですか」

 初老の庭師サムは、ついこの前に、義母が私の手を鞭で打ったことを知っている、唯一の使用人だ。

 これまでも彼はずっと心配してくれていたのだろうけれど、私が他言無用だとお願いしたので、他の誰かが居る前ではずっと聞けなかったのだろう。

「ああ。サム。何ともないわ。もう、治ってきたから」

 レースの手袋の中にある手はアーロンが最高級の治療薬を買ってくれたおかげで、何日か経った今では驚くことにピンク色の皮膚が再生し、もうすぐ包帯を巻くこともないだろうと思う。

 手は生活の必要上良く動かしてしまい、回復が遅い部位だと言うのに、回復の速度が早すぎて、あの薬はどれほどの値段がするのだろうと身震いしてしまう。

「それは本当に良かったです。奥様……失礼を承知で言いますが、儂はあの怪我が誰の仕業であるか、旦那様にお伝えするべきだと思います」