困ったように言ったアーロンに、クウェンティンは生真面目に言い返した。

「旦那さまからは、奥様の御身を第一にお守りすること、それに奥様の意向を最優先するようにとしか、聞いておりません。旦那様は必ず一年以内に戻られるので、帰って来て下されば、あの放蕩者と偽愛人については、すぐに解決すると思っておりました」

 確かに、クウェンティンは私の希望通りに動いてくれた。

 ヒルデガードを殺そうと言った時も、それは止めて欲しいと言ったのは私だし……身重なサマンサを追い出さないでくれと、クウェンティンにお願いしたのも私……。

 執事クウェンティンはアーロンに言われた通り、私の意向を最大限に尊重してくれた。

「わかった。もう良い……確かにお前が言う通りだ。どうやら、俺の指示が悪かったようだ。悪かった」

 アーロンはすんなりと自分の指示が悪かったと認め、クウェンティンに謝った。私は二人の会話を聞いていて、正直に言ってしまえば驚いた。

 雇用主で気位の高い貴族がこうして使用人に非を認め謝るなんて、通常であれば、あり得ないはずだからだ。