……彼さえ生きていてくれればと、訃報が届いた一年ほど前から数え切れぬほどに思ったのに。

 今ここに、そのアーロンが居るのに……それなのに、なぜだか怖いのだ。

 アーロンは話に聞いた通り、精悍で美形な顔を持つ男性で、その体は逞しく鍛え上げられ頼れそうだ。

 私のことを、きっと守ってくれるだろう。そんな彼が、ただ距離を縮め近づいて来ただけなのに、私は泣きそうになった。

 ……どうして? 望み通りに、夫アーロンはこうして帰って来てくれたのに。

「あの……本当に、アーロン……様なのですか?」

 今日初対面だというのに、いつも心の中で彼を呼んでいるようにアーロンと呼びそうになった私は慌てて敬称を付けた。

「ああ……留守の間、随分と不安にさせたようだ。本当に悪かったよ。何もかも説明するから、俺の部屋に戻ろうか」

 アーロンは私の手を握り歩きだそうとして、立ち止まり、私の手と自分の手を見比べた。

 彼の大きな手には、赤い血が付いてしまっていた。

「あ、これは……汚してしまって、ごめんなさい」

 ……いけない。赤い長手袋を身につけていたから、自分も気が付かなかった。