「そんなことが……ある訳がない。あいにく、俺は酒が強くてね。これまでに酔い潰れたことなど一度もないと言い切れる。行きずりの女と一夜を共に過ごした記憶どころか、お前と会って話したこともない。ああ。死んだと聞いて、詐欺師が上手く取り入れると踏んだか。クウェンティン。不毛な言い合いは終わりだ。この二人をさっさと、つまみだせ!」

「御意」

 アーロンの言葉にクウェンティンは胸に手を当てて返事をして、使用人に目配せをした。

「まっ……待ってください! 私は! 私は詐欺師ではありません!」

「兄上! 酷いよ! 話を聞いてくれ!」

 なおも言い募ろうとしていたヒルデガードとサマンサは、数人の使用人に取り押さえられた。大きく息をついた不機嫌そうなアーロンは部屋へ戻ろうとしてか、こちらを振り返って私を見つけた。

 まさか、ここに私が居るとは思っていなかったのだろう。とても、驚いているようだ。

「ああ……ブランシュ。どうした。疲れていたのではないのか?」

 アーロンがゆっくりと近づいて来て、何故か私は逃げ出したくなった。