これまで寝ていたのだろうか寝癖の付いたヒルデガードは悔しそうな表情をして、アーロンは不機嫌そうに睨んだ。

 玄関ホールには、ヒルデガードの部屋から出された荷物が、乱雑に置かれていた。

 夜会から帰って来たアーロンは、ヒルデガードが帰って来ていることを聞き、荷物を全てここに出すように使用人たちに命じたのかもしれない。

 戦いを職務とする軍人らしく、荒々しい性格をしているとは聞いていたけれど……こんな風に追い出すなんて、私には絶対に出来ないことなので驚いてしまった。

「お前には、本当に残念な知らせだな。この通り、死んでいない」

「兄上の訃報を聞いた。だから……キーブルグ侯爵家の者として、帰らねばと……」

「何度も言うが、ここはもうお前の家ではない」

「兄上。それは、父上が言った言葉だろう?」

「残念だが、俺だって、同じ気持ちだ。お前と同じ血が流れていると思うと、うんざりするよ」

「だが、訃報が間違いだったのか? そんなことが、あるはずが」

「お前に説明する事でもないと思うが……死んだ振りをしたんだ。勝つために」

「死んだ振り……? 何を」