どこか遠くから、怒声が聞こえて来た。内容は聞こえないものの、激しく誰かを罵っているようで、私は慌てて部屋の外に出た。

「……何? 何があったの?」

 広い廊下に出ても、内容は聞こえない。私は声が聞こえて来る玄関ホールへと向かった。

「……ヒルデガード! 何故、俺の邸にお前が居るんだ? 五年前、亡き父にお前は家族でもなんでもないと、勘当されただろう?」

「兄上……それは、父上も怒っていただけで……」

「俺だって同じ気持ちだよ。二度とお前の顔は見たくない。自分があの時に何をしでかしたのか、覚えているのか!」

「兄上。どうか、待ってくれ。俺の話を聞いてくれよ!」

 どうやら、帰ってきたアーロンと勘当されていたはずの弟ヒルデガードが言い争っているようだ。

 兄弟二人の関係は険悪だったとクウェンティンからも聞いていたけれど、まさかここまでとは思わなかった。

「出て行け! 俺に今すぐ、殺されたくなければな!」

「待ってくれ。兄上! どうして、帰って来たんだ……死んだはずだろう?」