開戦の時、俺は敵側が矢を射はじめた時、命じていた通りに、肩に刺さった矢を見て大袈裟な動作で馬から落ちた。

 自分では少々わざとらしかったかもしれないとは思ったが、作戦を知る士官の部下以外は、大いに狼狽してくれたようなので、俺の作戦通りに上手く行った。

 頼みの司令官が開戦早々に死んだと知って、兵にも逃亡者が出始めた。

 俺はそれを、止めるなと命じた。逃げた奴らが話を広めてくれれば、こちらとしても作戦がやりやすい。

 とはいえ、実際に怪我を負う事になった俺は、起き上がれるまで二週間の時間を要した。その間に戦いは籠城戦へと突入し、敵側はこれは勝ったと思い込み完全に油断している。

 自軍に被害を出すことなくじわじわと時間を掛け、追い込もうと思うはずだ。俺ならばそう思う。籠城戦で補給路もない軍など、勝ったも同然だ。

 ……援軍がここには来ない、前提ならば。

「閣下。肩はいかがですか……」

「ああ、この程度。これで、国が守れると思えば、安いものだ」

 優秀な弓兵に命じ事前の予定通りの場所だったが、矢は深く肉をえぐり、傷跡が残るだろう。別にこのくらい、大したことはない。

 本当に、安いものだ。こんな傷程度で、愛する妻の命が守れるのならば。