だがシュレイド王国は、あまりに平和な時間が流れ過ぎた。どうせ今だって、自分が行かずとも勝利の知らせを待てば良いだろうと、のんびりしている貴族も多いだろう。

 もし、この事態を正確に理解しているならば、絶望のあまりに自死を選ぶ者も居るかもしれないので、何もわからない方が幸せなのかもしれない。

「俺の名誉が、どうした。そんなくだらないもので、国や国民が救えるのか。俺たち軍人は、国を守るために存在している。数を見ろ。我が軍三万に対して、連合軍は十万の軍勢だ。三倍以上の軍勢を相手取るというのに、お前は俺が名誉などという無駄なものを取ると本気で思っているのか」

 部屋の中には緊張が走りようやく、少々は理解することが出来たのかもしれない。

 しかし、こんな絶望的な状況だとしても、なんとか我が軍の心を鼓舞して戦うしかないのだ。

 完全に追い詰められた窮地に万が一にも勝利する奇跡があるとするならば、勝利を諦めない自軍があることが大前提なのだから。