彼の命に比べれば、こんな傷……なんでもない。

「ねえ。サム。私、もうすぐここを出ていくの。もうすぐ、亡くなった旦那様の喪が明けるから……だから、そういう意味でも問題を起こしたくないの。お願いだから、黙っていてね?」

 そうだ。問題は起こしたくない。だって、もし誰かと再婚するのなら、そうであった方が良い。

 涙ぐんだサムは何度も頷き、握った私の手を覆うように手で包んだ。

「何も出来ず、本当に申し訳ありません。もし、旦那様が生きておれば、きっと奥様を守ってくださったでしょう」

「……ふふ。そうね……旦那様は、恐ろしい二つ名のあるほど強い将軍だもの……本当に、生きていてくれれば、良かったのに」

 心から、そう思う。夫が生きて居てくれたなら、私がここまで思い悩むことだってなかったはずだ。

 義母からだって、守ってくれた。

「奥様……」

 生きていれば……私はこれまでも、何度も何度もそう思った。

 けど、何年も前に亡くなったお母様が生き返るはずもなくて、会う前に亡くなってしまった夫も蘇って助けてくれるはずもない。