妙に優しげな猫撫で声を出す義母に無理矢理微笑み、私は膝をついたままで頭を下げた。

「奥様……」

 足音が遠ざかり、誰かが私の元へと駆け付けた。そちらへと目を向けると普段は愛想のないサムが、血相を変えていた。

「……大丈夫よ。気にしないで。私が貴方を雇っているのだもの。責任は私にあるわ……けれど、このことは誰にも言わないで。他言無用よ。絶対に言わないと約束して……クウェンティンにも」

「奥様……しかし!」

「それを聞いた誰かにも、貴方も、危険があるかもしれないから。良いわね。巻き込みたくないの」

 私の真剣な言葉を聞いたサムは息を呑み、しわが刻まれた目に涙を浮かべた。

「必ず、約束いたします……なんと、おいたわしい。奥様は何も悪くないのに。こんなことが、許されて良いのでしょうか」

 黒い手袋をしているにも関わらず生地が破れ、皮膚がめくれた私の手を見て、悲しそうだ。

 私はぎゅっと手を閉じて、じんじんとした痛みから気を逸らした。

 大丈夫……こんな怪我、すぐに治る。けれど、サムのような平民の命は、義母にとっては気にするほどもないものだった。