それに……もうすぐ再婚して出て行く予定のキーブルグ侯爵家のお金なんて、自分勝手に使えるはずがないわ。

「ええ。そろそろ、一年前に亡くなった夫の喪が明けますので……」

 歯切れ悪く言った私の言葉に、義母は手に持っていた扇を開いて、興味なさそうに言った。

「ああ。確かそうだったわね。ここ一年は、大変だったでしょう」

 労いの言葉を掛けられても、この義母は絶対にそうは思っていないと理解してしまえるのも、複雑な気持ちを抱いた。

 言葉を言葉通り、受け取れない……それに、義母グレースはいつ機嫌を損ねてしまうかもわからず、私は常に怯えなくてはいけなかった。

「はい。ですが、良い使用人に恵まれましたので……」

 これは、嘘偽りのない事実だ。

 当主アーロンが居なくて嫁いでそうそうに未亡人になった私を支えてくれたのは、クウェンティンを始めキーブルグ侯爵邸で仕える使用人たちだった。

 慣れない私の至らぬ点も、慣れている彼らが居たからなんとかなったという部分も多い。

「そう……ああ。本当に良い庭ね。帰る前に、見ても良いかしら?」

「はい。お義母様。どうぞ」