……あんな風に人前で罵られて、打ちのめされた気持ちになってしまうのは、仕方ないこと。

 私にだってそれなりに自尊心は持っているけれど、それを大事にしてくれた母は、もう亡くなってしまった。

 ハンナが義理の姉である私を馬鹿にすることは、いつものことで、それは仕方ない。

 義母グレースが、亡くなった先妻の娘である私を嫌ってしまうことだって、仕方ない。だとするならば、彼女の娘ハンナだって、それに歩みを合わせても仕方ない。

 父だって娘一人よりも、エタンセル伯爵家を大事にすることも当主として仕方ない。

 アーロンは軍人だし、戦場に向かえば命を落としてしまう危険性があることも仕方ない。

 放蕩者の義弟ヒルデガードだって、勘当されて長いと聞くし、キーブルグ侯爵家の使用人たちにも「まさか、あんな風に出ていったのに帰って来ると思わなかった」という言葉が多く、けれど実際に帰って来てしまったからには仕方ない。

 愛人サマンサだって、身重な身体で一人では生きて行けず、子の父アーロンの肉親を頼っても仕方ない。