亡き兄を揶揄するようなヒルデガードの言葉を聞いて、その場に居た使用人たちの空気が悪くなったけれど、私は片手を挙げてそれを留めた。

 特にクウェンティンは、無表情が常であるというのに、ヒルデガードが兄アーロンを馬鹿にしたような軽口には、とても我慢できぬようですぐに殺気立ってしまう。

 兄を嘲り怒りを煽るような言葉に、私だって嫌気がさしていた。

「ええ。本当に、国を守ってくださった夫アーロンはご立派でしたわ」

「ああ。兄も悔いの多い人生にはなったろうが、それもまた運命だろう」

 だらしなく白いシャツの胸元を広げたヒルデガードはそう言いながら、赤いワインを右手で持っていた丸いグラスの中で転がした。

 彼の前でため息をつきそうな自分を、必死で押し留める。アーロンの弟ヒルデガードは、あまり性格は良くない。ここで私が無礼なことをすれば、それをねちねちと長い間文句を口にするだろう。

 これまでの彼の振る舞いを見ていて、私だってそれを良く理解していた。