クウェンティンは従順な執事としての顔しか見せていなくて、冷徹な表情などこれまでに見たことがなかったから。

「……なんてことを! この方は、アーロン様の弟君なのよ」

「ですが……奥様」

 ここで自分を止めるなんて意味がわからないと、不可解そうなクウェンティン……とは言っても、ここでヒルデガードを殺すようになんて、命令出来るはずがない。

 悔しそうなクウェンティンを宥めるように、私は彼の二の腕を摩った。貴族に仕える使用人が主家に逆らえば、立派な犯罪行為になってしまう。

 ヒルデガードはクウェンティンの髪からパッと手を離し、自分を睨みつける執事を鼻で笑った。

「こちらの未亡人は、話が早い。それでは、俺が以前使っていた部屋へと戻ろう……何。喪が明ければ、結婚しても良いらしいからな。半年ほど時を待てば、この邸も美しい妻も、全て俺のものだ!」

 大声で笑いながら去っていくヒルデガードに、使用人たちは一様に怯えた様子を見せていた。

 無理もないわ。亡くなった旦那様の弟が、あんなにまで乱暴な人だったなんて。