二人の顔を思い出すたびに、自分が何も出来ない役立たずなのだと罵られた日々が頭を掠めた。

 もう二度とあんな場所に帰りたくないという気持ちと共に。

 だから、私は亡き夫の遺産だけで、ただ安穏として生きていくなんて、とても考えられなかった。

「いいえ……爵位と財産を旦那様が遺してくださったのに……ただ、それを受け取るだけなんて出来ません。私にも手伝わせてください」

「……旦那様より、奥様の希望を最優先するようにと伺っております。ですが、決して無理はなさらないようにお願いいたします」

 クウェンティンは優秀な執事だけど、同時に優秀な教師でもあった。

 何年か前に母が亡くなって以来、家庭教師がつかなくなり簡単な計算しか出来なかった私を、根気よく繰り返し指導し領地経営や財務管理の何たるかを教えてくれた。

 歴史政治経済に至るまで基礎から応用までを順序立てて知り、私は結婚してから学問の楽しさを知った。

 静かで平和な日々が続いた、半年後のことだった。

「兄アーロンが死んで居ないのならば、俺こそが跡取りだろう!」