彼が差し出した書類の写しには、確かにさっきクウェンティンが言った通りの文言が書かれていた。

 ……そして、私は未亡人としてキーブルグ侯爵夫人になり、会った事もない夫アーロンの遺産、全てを受け継ぐことになった。

 だから、これからキーブルグ侯爵家の運命は、もう私の手に掛かっていると言っても過言ではなかった。

 実家のエタンセル伯爵家の領地など、本当に猫の額で、お父様が頼りにならない領主だとしても、代わりにその地を治めてくれる代官さえしっかりしていれば目が行き届く。

 そんな貧乏伯爵家で生まれ育った私には、キーブルグ侯爵領は信じられないほどの広さなのだ。

 それを……何の経験もない私が問題もないように、苦心して管理しなければならない。

 執事クウェンティンが言うには領地には何代も仕える代官が居て、王都に住む私は報告を聞く程度で何もしなくて良いし、夫の喪が明ける一年ほどはゆっくりと傷心を慰めていてくださいと言った。

 けれど、私はクウェンティンが悲しく辛い中で掛けてくれた優しい言葉を、そのままの意味では信じることが出来なかった。