私はその時、今日自分と結婚する夫が、迎えに来てくれたんだと思っていた。

 けれど、そこに居たのは品の良い執事服を見に纏う、私と同じくらいの年若い男性だった。

 ……誰かしら?

「私はアーロン様に仕える執事クウェンティンと申します。ブランシュ奥様。はじめまして……申し訳ありません。旦那様は、つい先ほど、火急の事態を受けて、急遽出征なさることになりました」

「……え? ……けど、あの……結婚式はどうするの?」

 アーロンは軍人で国が危ない時には、急ぎ出征しなければいけないことは理解していた。

 けれど、古くから歴史を持つキーブルグ侯爵家の結婚式なので、両家の親類たちや縁のある家から招待客なども華々しく、なんなら王族だって出席されていた。

 ……だと言うのに、結婚式を中止するの?

 信じられない思いで私が聞けば、クウェンティンは可愛らしい顔の表情を全く変えることなく頷いた。