ハンナは日々社交でお茶会にと飛び回っていて、姉の私だって貴族令嬢であるというのに、社交は最低限しか許されなかった。

 本来ならば一昨年する予定だったのに、何かと理由を付けられて未だデビューしていない。

 化粧品は贅沢だとすべて取り上げられ、使用人に混じり水仕事をして、冷たい水に耐えらない手には、あかぎれが目立っていて、薬を使うことだって許されなかった。

 これでは、エタンセル伯爵家の娘などではなく、扱いは使用人だった。

 だから、これまでとても不安だった……いつか義母の都合の良い家の、とんでもない男性と結婚させられてしまうのではと。

「ブランシュ……私はこれが君にとって、最善の身の振り方になるだろうと考えている。グレイスがあの調子では、お前をハンナよりも良い家には嫁がせたくないと思うだろう」

「……ええ。お父様。私もそう思います」

 苦い顔をした父はそれを解りつつも、その時が来ても庇うつもりはないということよね。

 仕方ないわ……この人には、娘よりも家が大事だもの。貴族の当主として正しいのは、父の方なのだから。