その時に、私はようやく自分が泣いている事に気がついた。

 ……泣いていて、何が変わるって言うの。アーロンの傷が奇跡的に治るとでも……?

 そんな訳ない。助けるためには……私以外の手が必要なのよ!

「アーロン。待ってて。助けを呼んでくるから」

 周囲を見回しても、どこの扉も固く閉ざされている。ヒルデガードはまだ悲鳴をあげて転がり回っているし、不気味な何かが起こっていると思われても仕方ない。

 私はアーロンの身体を丁寧に寝かせると、近くにあった扉を叩いた。

「すみません! すみません! どうか、どうか開けてください! お願いします!」

 何度叩いても、誰も出て来てくれない。こんな良くわからない刃傷沙汰に巻き込まれたくないと思って居るのだろう。

 ……私だって、そう思うかも知れない。誰も責められない。私たちは貴族には見えない服を着ていたし、アーロンがいきなり刺されたとしても、完全な被害者であるなんて、事情をわかってもらえないとわからないはずだもの。