「わかっている。大丈夫だ。ヒルデガードくらい、怪我をしていても殺せる」

 安心させるために言っているとわかっていた。背中からは大量の血が流れ、ヒルデガードは手に血に塗れた剣を持っていたからだ。

「あーあ。兄上。不敗の軍神も、背中を刺されて死ぬとは……軍人としては、一番不名誉な死に方ですね」

 ……なんてこと。私が殺さないでと言ったから……ヒルデガードは殺すべきだと、アーロンやクウェンティンが何度も何度も言ったのに!

「背中の傷など、見せなければ意味もない……」

「その傷で、強がりがいつまで続くでしょうか。ここで死んだら、兄上のものはすべていただきます。キーブルグ侯爵家の血を持つ僕だけです。妻も可哀想だから、引き取りますよ。実家には帰りたくないようですしね」

 嫌な笑い。私がエタンセル伯爵家に戻されれば、どうなるかを知っているんだ……だから、逆らわないだろうと?

「……ふざけないで! 死んでも貴方の妻になんてなるものですか!」

 私は倒れ込むアーロンを支えて、ヒルデガードを睨み付けた。

「姉上?」