「……それに、それだけのお金を使うなら、キーブルグの領地で思う存分買い物をしたいわ」

 キーブルグ家の領地ならば領民が潤うけれど、ここは王家の直轄地。私たちがお金を使っても治める民には届かない。

「一年間留守にした間に、俺の妻は領地経営も上手くなってしまって、俺もなんだか立つ瀬がないよ」

 やれやれと肩を竦めたアーロンは、急に驚いた顔をして背後を振り向いた。

「……ヒルデガード!」

 私はそこに居るはずのない人物を見て、驚いて彼の名前を呼んだ。

「はははははは!!! 油断したな? 兄上がいなければ、俺がキーブルグ侯爵だ!」

 まるで気が触れたように笑い出したヒルデガードに、村の住民達は店をしまい家の中に逃げ込み始めた。

「お前……さっさと殺しておけば良かったよ」

 吐き捨てるように言ったアーロンの言葉を、ヒルデガードは鼻で笑った。

「ふんっ! 何を今更、先に地獄を見ろ!」

 私はアーロンが青い顔をしている事に気がついた。そして、彼の背中に赤い血が流れているのを。

「アーロン!!!」

 私の悲鳴を聞いて、アーロンは眉を寄せて言った。